『Jazz The New Chapter 4』発売記念! 柳樂光隆氏による〈JAZZ×HIPHOP/R&B〉新名盤10選
2010’s JAZZ×HIPHOP/R&B New Masterpiece from “Jazz The New Chapter 4”
ヒップホップ/R&Bをはじめ様々な音楽を巻き込み進化を続ける〈今のジャズ〉はこれを読めばわかる!現在進行形のジャズを追う大好評のムック本「Jazz The New Chapter」第4弾の発売を記念し、監修者の柳樂光隆氏に〈JAZZ×HIPHOP/R&B〉の新たな名盤をセレクトしていただきました。
ロバート・グラスパーが2012年に『Black Radio』をリリースして、もはや5年。その後、フライングロータス『You’re Dead!』、ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』などが生まれジャズとヒップホップ/R&Bの関係も日々更新されています。そして、2016年にはコモンやア・トライブ・コールド・クエストが更なる進化を見せてくれました。そんな2017年に『Jazz the New Chapter』シリーズの最新刊をリリースします。掲載盤の中からヒップホップ/R&Bリスナーにも聴いてほしい傑作を10枚選びました。ブルーノート・レーベルの社長ドン・ウォズの言葉を借りると「アメリカでは、たとえジャズ・ミュージシャンであっても、40歳以下の人間がヒップホップを聴くのを避けて育つことは出来ない」とのこと。そんな時代に出てくるべくして出てきたジャズやヒップホップ、ソウルやゴスペル、R&Bが入り混じった新たなブラックミュージックを是非聴いてみて下さい。
柳樂光隆
The Roots『And Then You Shoot Your Cousin』
KRSワンの名曲「Step Into A World (Rapture's Delight)」からインスパイアされたという本作は、いつも以上の社会性/メッセージ性を感じさせる渾身作。ソウルやジャズだけでなく、メアリー・ルー・ウィリアムスやニーナ・シモン的なスピリチュアルな聖歌やゴスペルの雰囲気をヒップホップに取り込んだ美しすぎるヒップホップ以降のUSブラックミュージック史組曲。ジェームス・ポイザーがオルガンを奏でるゴスペル・トラックはザ・ルーツが今奏でるべき音。
Common『Black America Again』
ジャズ・ドラマーのカリーム・リギンスがプロデュースし、ロバート・グラスパーも参加したヒップホップ×ジャズの新たな名盤。緊迫感のある生ドラムを切り取ったカリームによるビートや、敢えて、音が割れるように鍵盤を叩き怒りを表現するグラスパーのピアノ、そして、エモーショナルに畳みかけるコモンのラップが合わさったタイトル曲は今後も語り継がれるであろう名曲。21世紀の新たな『Like Water for Chocolate』とでもいうべき名盤の誕生だ。
A Tribe Called Quest『We Got It From Here』
ラストアルバムに召還したのはケンドリック・ラマーやアンダーソン・パークだけでなく、QティップゆかりのBIGYUKI、マーク・コレンバーグ、ケイシー・ベンジャミンといった現代屈指のジャズミュージシャン達だった。ジャーマンロックやレゲエをも使ったATCQらしいサンプリングの質感と、ひたすら演奏を録音してはそれをエディットし、そこにまた演奏を重ねまたエディットしていき、生演奏を高度かつ自在に組み合わせ生み出した傑作。
Jeff Bradshaw『Home』
フィラデルフィアを代表するトロンボーン奏者が豪華ゲストを迎えて行ったライブ盤。総合プロデュースはロバート・グラスパー。ソウル、ファンク、ジャズ、ヒップホップ、そして、ゴスペルを横断する音楽家揃いのフィリーの音楽シーンを総括するような音絵巻。Jディラ・ネタの「Open Your Eyes」で始まるのもグッとくるし、ミュージック・ソウルチャイルドのフィリー・クラシックス「Love」など、フィリーならではの選曲にも意味がある。
Lil John Roberts『Heartbeat』
プリンス、スティービー・ワンダーから、ミュージック・ソウルチャイルドなどのネオソウル、カニエ・ウエストなどのヒップホップまでを横断してきたフィラデルフィアが誇る職人ドラマーの音楽性そのものなデビュー作。グラスパーとの曲ではヒップホップにラテンを混ぜたような独創的なリズムや人力エフェクトなどでテクニックを披露。YMO「Firecracker」をサンプリングした(2)のようなセンスも第一線で活躍する売れっ子ならでは。
※残念ながら現在タワーレコードオンラインではお取扱ございません
Josef Leimberg『Astral Progression』
テラス・マーティンとのコンビでケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』を手掛けたプロデューサー/トランぺッターのデビュー作。カマシ・ワシントン的スピリチュアルジャズ、サンダーキャット経由のコズミック・フュージョンなどに、テラス・マーティン的なヒップホップやカルロス・ニーニョ的なニューエイジ/ディープハウス的なサウンドが入り混じるLA産一大ジャズ絵巻。それらを繊細なプロダクションでスムースにまとめるセンスに驚く。
Laurin Talese『Gorgeous Chaos』
ヒップホップ/R&Bシーンのベーシスト/プロデューサーのアダム・ブラックストーンが半分、クリスチャン・マクブライド・トリオのドラマーのユリシス・オーウェンスが半分プロデュース。歌うローリン・タリーズもジャズ、ソウル、R&B、ネオソウルなど全てを兼ね備えたテクニックで、そのすべてを織り交ぜながら歌う。ゲストのロバート・グラスパーとも相性は抜群。今、2010年代にこそ出てくるべきジャズボーカルアルバムともいえる。
BIGYUKI『Greek Fire』
ATCQ、Jコール、ビラル、マーク・ジュリアナなどに起用され、今、NYで最も注目されている鍵盤奏者と言われているのがBIGYUKIこと平野雅之だ。まるで左右の手が別人格のように、右手でメロディーを、左手でベースラインを弾きながら、トラップやダブステップ、ビートミュージックを視野に入れた楽曲を作り出す。ファンキーなベースラインとクラシックのようなメランコリックな右手を組み合わせたりするセンスも個性的。これがNYの最新形。
Bilal『In Another Life』
ロバート・グラスパーが最も信頼し、ケンドリック・ラマーやコモンが欲する現代USシーンの奇才シンガー、ビラルが組んだのは気鋭プロデューサーのエイドリアン・ヤング。60~70年代のソウルを模したサイケデリックでヴィンテージなサウンドや、映画音楽のようにドラマチックな楽曲を駆使したエイドリアンのサウンドは、ジャズヴォーカリストのように変幻自在に声を変化させるビラルのエモーショナルなスタイルと相性抜群。
Karriem Riggins『Headnob Suite』
コモン『Black America Again』のプロデューサーでもあるジャズドラマーによるビート集。ドラムセットにセンサーを付けてドラミングの微細な違いを読み取り生ドラムの特性を生かしながらビートを作れるソフトSensory Percussionを駆使し、トップジャズドラマーでもあるカリームの人力ドラミングの質感が打ち込みのビートに宿る。カリームがジャズモードの時に紡ぐ繊細な4ビートを思い起こさせる音色が光る。もはやプログラミングと生演奏の境界は判別不能。
掲載: 2017年03月07日 15:28