WEEKEND JAZZ ~週末ジャズ名盤探訪 Vol.34
エロール・ガーナー『コンサート・バイ・ザ・シー』(1956)
エロール・ガーナー(p)
エディ・カルホーン(b)
デンジル・ベスト(ds)
1955年9月19日 カリフォルニア、カーメルにてライヴ録音
曲目:
01.アイル・リメンバー・エイプリル(四月の思い出)
02.ティーチ・ミー・トゥナイト
03.マンボ・カーメル
04.枯葉
05.イッツ・オール・ライト・ウィズ・ミー
06.レッド・トップ
07.エイプリル・イン・パリス(パリの四月)
08.ゼイ・キャント・テイク・ザット・アウェイ・フロム・ミー(私からは奪えない)
09.ハウ・クッド・ユー・ドゥ・ア・シング・ライク・ザット・トゥ・ミー(つれない仕打ち)
10.ホェア・オア・ホェン(いつか、どこかで)
11.エロールのテーマ
【アルバム紹介】
1.名曲“ミスティ”作曲者エロール・ガーナーのスインギーなピアノが光るライヴ名盤
2.“ビハインド・ザ・ビート”と呼ばれる独特のスイング感
3.美ジャケ(オリジナル、再発盤、コンプリート盤の3種あり)
前回紹介の『ジョン・コルトレーン ・アンド・ジョニー・ハートマン』は温もりに満ちたロマンティックな美しい名盤でした。今回紹介するアルバムは、波打ち際の海岸とそこに写る女性との絵的に美しいジャケットゆえ、思わず手を伸ばしたくなるライヴ名盤です。
本作はピアニストのエロール・ガーナーが50年代にカリフォルニア州の海沿いの町カーメルで行なったパフォーマンスを収録したものです。このカーメルという町は正式には“カーメル・バイ・ザ・シー”という名で、そこでのコンサートの模様である、というアルバム・タイトルはウィットに富んでいます。
エロール・ガーナーはジャズ・スタンダードの名曲“ミスティ”の作曲者でも有名ですが、ピアノのスタイルとしてはその“ビハインド・ザ・ビート”と呼ばれる独特のスイング感で人気を集めました。そんなガーナーのスインギーなプレイをたっぷり楽しめるのが本作というわけです。
アルバムはスタンダードの“アイル・リメンバー・エイプリル”で始まりますが、全編ガーナーのトリオでのノリノリのプレイが堪能でき、オーディエンスの反応も非常に良く、素晴らしい一夜だったことが伝わってくる、そんなライヴの記録になっています。
最初に本作の美ジャケについて触れましたが、実は3種のデザインが存在します。まずはオリジナル発売時のジャケット、続いて70年代の再発盤(下記左)、そして2015年リリースのコンサートを全収録したコンプリート盤(下記右)と、それぞれ海岸の景色とそこに写る女性の構図が違い、またそのファッションの変化が楽しめ、思わず全部集めたくなってしまいます。
【スタッフのつぶやき:この1曲を必ず聴いて下さい】
カクテル風タッチが光る“枯葉”名演。
エロール・ガーナーというピアニストは“ミスティ”という美しい名曲を世に送り出しているだけに、そのピアノもさぞ流麗なものと想像してしまいますが、実は意外にゴツゴツしたフィーリングがあり、そのギャップがかえって印象付けられます。
とはいえ、この曲では、スローな演奏の中に、独特の美的センスを発揮しており、ジャズ・フレイバーというより、どこかイージー・リスニングに近いアプローチを聴かせ、一部の人からガーナーのスタイルは“カクテル風ピアノ”と言われる所以になっています。そのことが数ある名演の多いこの曲のユニークな解釈の演奏の1つになったのでは、と思われてなりません。
さて、余談ですが、映画俳優、監督のクリント・イーストウッドとエロール・ガーナーとの関連性をお伝えしておきましょう。
サンフランシスコ出身のクリント・イーストウッドはジャズ好きの映画人で有名ですが、初監督作として1971年に発表したのが、映画『恐怖のメロディ』でした。原題は『Play Misty For Me(“ミスティ”をかけて)』で、人気ラジオDJが毎晩、ガーナーの“ミスティ”をリクエストしてくる女性とある日関係を持ったことからその女性からのストーカー行為がどんどんエスカレートしていく、というサスペンス映画でした。また、イーストウッドは1986年に本作のレコーディングが行われた町カーメルの市長に立候補して当選し、2年間その職にありました。そんなことを知りつつ、映画を見た上で本作を聴いてみると、劇中に出てくる沿岸の情景や海沿いに建つ家を思い出すことで、音の印象がより立体的になり、少し違って聴こえるかもしれません。
Blu-spec CD2国内盤(一般普及盤)
完全版国内盤
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タグ : WEEKEND JAZZ
掲載: 2019年07月12日 11:00