WEEKEND JAZZ ~週末ジャズ名盤探訪 Vol.88
ミシェル・ペルチアーニ・トリオ『ミシェル・ペトルチアーニ』(1981)
ミシェル・ペトルチアーニ(p)
ジャン・フランソワ・ジェニー=クラーク(b)
アルド・ロマーノ(ds)
1981年4月3日、4日 オランダ、スピッツベルゲン・スタジオにて録音
曲目:
01.オマージュ・ア・エネルラム・アトセニグ
02.酒とバラの日々
03.クリスマス・ドリームス
04.ジュスト・アン・モマン
05.ガティット
06.チェロキー
【アルバム紹介】
1.病気のハンデをかかえながらも、天分の才能に恵まれたフランスのピアニスト
2.通称「赤ペト」で知られるヨーロピアン・ジャズの名作
3.ヨーロッパの実力派ミュージシャンが参加したピアノ・トリオ・アルバム
前回ご紹介いたしましたグラント・グリーンのアルバムは「1962年12月21日」録音のアルバムでした。この1週間後の12月28日にフランスで一人の天才ジャズ・ピアニストが誕生しました。
それがミシェル・ペトルチアーニです。
生まれつき、骨に関して先天性の病気にかかっていたため、骨自体が弱く、変形しやすいなどの理由で身長が伸びず、大きなハンデをかかえていましたが、ピアノの演奏は天分に恵まれ、ビル・エヴァンスの影響を受けたスタイルで、各方面から激賞され、1999年1月に36歳の生涯を終えるまで多くのリスペクトを集めました。
素晴らしいピアノの技術を持ち、アコースティック・ジャズ以外にもフュージョン寄りのサウンドへのトライもしましたが、本作はそのアコースティック・ジャズ作としてペトルチアーニの評価を不動のものにした、ジャズ・ファンから通称「赤ペト」の愛称で知られるヨーロピアン・ジャズの名作です。
編成はピアノ・トリオで、ヨーロッパのジャズ・シーンの実力派の2人、ベースのジャン・フランソワ・ジェニー=クラークとドラマーのアルド・ロマーノが参加し、楽曲はオリジナル曲をペルチアーニ、ロマーノが2曲づつ提供、そこに2曲のスタンダードが加えられた全6曲で構成されています。
【スタッフのつぶやき:この1曲を必ず聴いて下さい】
ヘンリー・マンシーニの名曲“酒とバラの日々”。
本作は80年代に入ってレコーディングされたアルバムですが、この時期、アメリカのジャズ・シーンは完全にフュージョンが主流になっており、アコースティック・ジャズの新録音ですぐれたアルバムはリリースされなくなっていました。本作はそんな頃に出た、ヨーロッパ発の正攻法のリアル・ジャズ・アルバムゆえ、現在もその人気が衰えない理由になっています。
また、当時のジャズ・シーンの主流としては、オリジナルで勝負する、という時期でもあったので、本作にペトルチアーニも自身のオリジナル曲を収録していますが、そんな中で取り上げた超有名曲であるスタンダード曲の“酒バラ”は誰もが知っているスタンダードの名曲であり、数多くの名演が存在する人気曲です。ゆえに比較試聴できる音源も多いので、ペトルチアーニのこの演奏との聴き比べが本作を聴いた後の楽しみになってきます。
この曲の演奏の解釈はそのピアニストによっていろいろですが、ペトルチアーニはバラード演奏で、ロマンティックに彩っています。
まずはピアノ・ソロで短い導入の後、ヘンリー・マンシーニの屈指の名旋律をリリカルなアプローチでジェントルに奏でてゆきます。
テーマを終えると、まるで映画の本編のようなストーリー性を持った起伏のあるソロに移りますが、そのフレーズは歌っているようにも聴こえ、この世の美をすべて集約したように響き、まさにぺトルチアーニの本領発揮といっても過言ではありません。
ハイノートで滑らかに駆け上がったと思えば、雫がしたたりおちるように下降してみたり、または何小節もの間、トリルで引っ張ってみたり。その表現力の幅広さに驚かされます。
これぞ、ジャズ史の中で屈指の美しさを誇る“酒バラ”の名演といえるでしょう。
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タグ : WEEKEND JAZZ
掲載: 2020年07月31日 10:00