壮大に、時にはジェントルにメロディーを彩るオーケストラとポップスとの幸福な出会い――〈オーケストラル・ポップ〉の優美な世界
昔々、ジャズから派生したポップスは、オーケストラとは密接な関係にありました。しかし、ロックの誕生後、ロック以前のサウンド=オーケストラは、ポップ/ロック・シーンにおいて〈時代遅れ〉と見られがちでした。しかし、あえてそれを斬新なアレンジで取り込むことに挑戦したのがビートルズであり、それを見事に完成させたのがビーチ・ボーイズでした。60年代に花開いたサイケデリック・ミュージックと相まって、こうしたオーケストラをフィーチャーしたポップ(当時は〈バロック・ポップ〉とも呼ばれた)は世界的に拡がりをみせたのです。そして、そんなムーヴメントからさらに20年以上の時を経て登場したのが、ハイ・ラマズらを筆頭とする、〈ビーチ・ボーイズ・チルドレン〉と呼ばれる若いアーティストたち。ひとつのコンセプトとしてオーケストラをフィーチャーし、独特の音響空間を作り上げようとした彼らのサウンドは――ビーチ・ボーイズ以降のソフト・ロック・テイストを持った彼らのルーツ的ミュージシャンも含めて――〈オーケストラル・ポップ〉と呼ばれるようになったのです。今回はそんなシーンの周辺から、英米のアーティストを中心にご紹介。微睡むようなその旋律をお楽しみください!(編集部)
THE BEACH BOYS
『Pet Sounds』 Capitol(1966)
ビートルズの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』に先立つこと1年と少々。ブライアン・ウィルソンのクリエイティヴィティーが炸裂した歴史的名作。ここでは楽器のみならず、自転車のクラクション、犬の鳴き声まで、すべてが壮大なオーケストラの一部となって銀河のように輝いている。アカデミックさはないものの、誰にもマネできない〈十代の交響曲〉。“God Only Knows”は神サマじゃなくても知っているオーケストラルな名曲なのです。(村尾)
SAGITTARIUS
『Present Tense』 Sundazed(1967)
60年代カリフォルニアならではのサイケデリック・テイストもほのかに香る、〈射手座〉のソフト・ロック定盤。煌めくような星間移動シンフォニー。そこに彗星さながら、幾重にも重なったハーモニーが長い尾を引いていく。ビーチ・ボーイズやバーズとの仕事で知られる名士、ゲイリー・アッシャーのスタジオ・プロジェクトがその実体。カート・ベッチャーやブルース・ジョンストン、グレン・キャンベルといったゲイリーの幅広い交流の輪が本作に集結。(福田)
HARPERS BIZARRE
『The Secret Life Of Harpers Bizarre』 ワーナー(1968)
映画音楽やオールドタイミーなポップ・ミュージック、それらを巧みにコラージュすることで独自の世界を生み出した〈バーバンク・サウンド〉。それを代表する本作は、すべての楽曲が切れ目なく構成され、オーケストラの調べがアルバム全体をひとつに纏め上げていく。レニー・ワロンカー、ニック・デカロ、ロン・エリオットといった職人たちが集まった〈夢工房〉=バーバンクが贈る、ハーパーズ・ビザールという名のテーマパーク! (村尾)
VAN DYKE PARKS
『Song Cycle』 Warner Bros.(1968)
夢かうつつか。そこはハリウッドのスタジオさながら、精緻な書き割りとめくるめく音響効果に優美な空虚が浮かぶ。そこで演じられるのは〈アメリカ〉にまつわる音楽の百花繚乱。カラフルな音の連なりに、白昼夢のような霞がかかる。しかし、歌われるのは紛れもない人間の物語。若きスタジオ・ロマンティスト、ヴァン・ダイク・パークス渾身の名作。夢のような音楽が夢を見るとき、そこにはいつも〈Song Cycle〉の2ワードが回転している。(福田)

THE NEON PHILHARMONIC
『The Moth Confesses』 Sundazed(1969)
これぞまさに120%オーケストラル・ポップ! 作曲家/キーボード奏者のタッパー・ソーシーが、ヴォーカリストのドン・ガントと出会ったことで結成されたこのユニット。バック・ミュージシャンには一流どころを揃え、タッパーの夢見るようなメロディーをドンが情感豊かに歌い上げる。その総天然色な世界は、まるでディズニー製作のソフト・ロック・オペラのよう。ジミー・ウェッブを思わせるミラクルなオーケストラ・アレンジもビューティフル!(村尾)
SERGE GAINSBOURG
『Histoire De Melody Nelson』 Philips(1971)
オーケストラル・ポップについて考えるとき、異色ながらハズせないのが本作。オーケストラを単なる伴奏ではなく、いわゆる〈音響〉的にフィーチャー。ある瞬間には歌声よりも全面に出てくる甘美なストリングスの響きが、アルバムのヒロイン、メロディー=ジェーン・バーキンの儚い歌声を際立たせる。ベックは本作でのオーケストラ・アレンジを絶賛しているけれど、ベック的オーケストラル・アルバム『Sea Change』に及ぼした影響も大きいはず。(村尾)
COLIN BLUNSTONE
『One Year』 Epic(1971)
ゾンビーズでも紫煙が立ち上るようなスモーキー・ヴォイスを披露していた名ヴォーカリスト、コリン・ブランストーンのファースト・ソロ・アルバム。元同僚であるロッド・アージェントとクリス・ホワイトもセッションに駆けつけ、クレジットにはトニー・ヴィスコンティの名前も並ぶ。少しだけ寂しげなカヴァー写真。その視線の先には、クラシカルなストリングスが彩るメランコリアと、作曲と録音に没頭した彼の〈1年間〉が浮かび上がっていく。(福田)
EVERYTHING BUT THE GIRL
『Baby, The Stars Shine Bright』 Sire(1986)
青々とした刈り上げ跡こそ当時の雰囲気(ニューウェイヴ!)を伝えてはいるものの、当初よりスタンダードなポピュラー・ミュージックへの造詣と愛情を湛えていたエヴリシング・バット・ザ・ガールのサード・アルバム。ここで彼らは重厚な、そして本物のオーケストラを従え、報われない愛の唄を格調高く仕立て上げる。トレイシー・ソーンのヴォーカリストとしての力量、そしてベン・ワットのオーケストラ・アレンジに胸がキュンと疼いてしまう。(福田)
THE HIGH LLAMAS
『Gideon Gaye』 V2(1994)
いやでもヴァン・ダイク・パークスの『Song Cycle』を連想させる同一書体でタイトルを掲げたハイ・ラマズ渾身の1枚。ロンドンの暗い曇り空の下、アメリカ西海岸の波打ち際に夢を巡らせる淡いストリングス。そこに、当時はまだ70年代シンガー・ソングライター的だったショーン・オヘイガンのか細い歌声が乗ることで、よく言われるビーチ・ボーイズ云々よりも、ハイ・ラマズならではのアンサンブルをすでに身に付けていたことがわかるトキメキの逸品。(福田)

CARDINAL
『Cardinal』 Gern Blandsten(1994)
ハイ・ラマズ『Gideon Gaye』と同じ年にリリースされ、同作と並ぶ90年代オーケストラル・ポップの草分け的アルバム。元モールスのリチャード・デイヴィスとクラシックの素養を持つエリック・マシューズ。この2人の洗練されたソングライティングを引き立てる、ソフト・ロッキンなオーケストラ・アレンジが素晴らしい。この1枚を残してそれぞれソロ活動に入るが、本作を発展させたエリックのアルバム群は、さらにジェントルな味わい。(村尾)
RUFUS WAINWRIGHT
『Rufus Wainwright』 Dreamworks(1998)
オペラにぞっこんのピアノ・マン、ルーファス・ウェインライトが艶やかに歌い上げる〈愛〉のデビュー作。その声は超高空を横切り、そして、地の底深く潜り込む。バックには、ジョン・ブライオンからヴァン・ダイク・パークスまでが並び、バーバンク・サウンドの現在形を確認することもできる仕掛け。ラウドン・ウェインライト3世とケイト・マクギャリグルを両親に持つサラブレッドなれど、しかし、これだけのバックアップに気後れしない彼の素質にこそ最敬礼。(福田)
THE DIVINE COMEDY
『Absent Friends』 Parlophone(2004)
ハイ・ラマズらとはひと味違ったテイストながらも、純英国風オーケストラル・ポップをモダンに再構築してみせたのが、UKポップ界のカサノヴァ、ディヴァイン・コメディことニール・ハノン。最新作となる本作は、全編に渡って鳴り響くオーケストラ・サウンドがとにかくゴージャス! もともとマイケル・ナイマンを敬愛して止まない彼だけに、その艶やかな歌声とオーケストラとの相性はぴったり。ヤン・ティルセンの参加も見逃せません。(村尾)