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第30回 ─ BOSSA NOVA

連載
Discographic  
公開
2004/07/22   16:00
更新
2004/07/22   20:45
ソース
『bounce』 255号(2004/6/25)
テキスト
文/佐々木 俊広、ダイサク・ジョビン

洗練されたアレンジに抑制の利いたサウンド、囁くようなヴォーカルがクールな感覚を呼ぶ〈永遠にモダンな音楽〉といえば……

 最近、日本ではカフェやバー、洋食屋チェーンでも〈オシャレな音楽〉としてBGMで流されているボサノヴァ。50年代後半、ブラジルのリオデジャネイロで誕生以来、ボサノヴァはジャズに始まって昨今のダンス・ミュージック全般まで世界中のさまざまな音楽に影響を与え続けているが、当初は既存の音楽に対するアンチテーゼとして若者たちが生みだしたものだった。なので、〈新しい才能〉といった意味も持つこの音楽は、フランスでの〈ヌーヴェルヴァーグ〉やUKでの〈ニューウェイヴ〉といったムーヴメントに近い、革命的/パンク的なものだったともいえるだろう。そのスタイルは大雑把に〈サンバとジャズの融合〉と言われるが、複雑なシンコペーションが自由かつ絶妙に混じり合ったビートとリズム、囁くように歌うクールな唱法、斬新なコード進行とそれに伴って不思議なハーモニーを作り出すメロディーなどといった特徴を持っている。基本的なスタイルはガット・ギターによるシンプルな弾き語りで、つまり歌手の微妙な表現力や声質自体が最大の魅力ともいえる。いつ聴いても永遠の輝きと新鮮さを持つ、この甘く危険な魔法の音楽を、現在入手可能な作品のなかから厳選して紹介しよう。(編集部)

STAN GETZ, JOAO GILBERTO
『Getz/Gilberto』
 Verve(1963)
ジョアン・ジルベルトとその妻アストラッドがポルトガル語と英語で交互に歌い、アントニオ・カルロス・ジョビンの控えめなピアノ・ソロとスタン・ゲッツのクールなサックス・ソロを挟む、ボサノヴァの代名詞的名曲〈イパネマの娘〉から始まる超有名盤。この〈イパネマの娘〉が全米で大ヒット後、ボサノヴァはあっという間に世界中の音楽ファンをも魅了した。ハイにもロウにもいかない、このひたすらニュートラルなテンションこそボサノヴァの本質。(ジョビン)

JOAO GILBERTO
『Joao Gilberto』
 Emarcy(1973)
これ、ジョアン周辺の人たちの間では〈カッパ・ブランカ(=ホワイト・アルバム)〉と呼ばれているらしい。意味深ですね。古典サンバやカエターノ・ヴェローゾなど後輩らのナンバーを中心に、彼とドラマー(というかバスケット奏者?)だけによるシンプルな編成で、禅僧よろしく内省的小宇宙の彼方を漂う。その姿に25年早すぎたドラムンベースを感じてしまうのは僕だけではないと思う。“E Preciso Perdoar”は後にアンビシャス・ラヴァーズがカヴァーした。(佐々木)

ANTONIO CARLOS JOBIM
『Composer』
 Warner Bros.
ボサノヴァを完成させた張本人で、ボッサ・スタンダードのほとんどは彼が作ったもの。でも、彼の書く曲の多くが〈ボサノヴァ〉という括りからハミ出しちゃってるってところもおもしろい。極めて独創的なコード進行、メロディー、リズムはヘンだし、ちょっとしゃがれた低音のヴォーカルは声量もなく頼りない。でも、建築家をめざしていた彼が緻密かつ整然と構築したアレンジと、それらの不思議なマッチングがまさしく〈ジョビン・マジック〉といえるもの。(ジョビン)

THE NEW STAN GETZ QUARTET FEATURING ASTRUD GILBERTO
『Getz Au Go Go』
 Verve(1964)
NYはグリニッチ・ヴィレッジのクラブでスタン・ゲッツと共演したアストラッドのライヴ盤。1曲目が始まった瞬間に温度が1、2度下がるかのような、ひんやりとした感触はまさにボサノヴァ。ライヴ録音なのでヴォーカルにエコーなどなんの装飾も施されてなく、息遣いまで伝わってくる生々しい彼女の歌声には溜め息が洩れる。〈元祖ヘタウマ歌手〉って、フラットするこの独特な歌い回しはやっぱり上手いし、気怠くて頼りない少女声はやっぱり別格。(ジョビン)

QUARTET EM CY
『Som Definitivo』
 ボンバ(1965)
〈天使のコーラス〉を聴かせるブラジルはバイーアの4人姉妹。今作はややアフロ・サンバ色が強い楽曲が多く、結果彼女たちの音楽性が持つ神聖さや幻想性を際立たせていて、クラクラとする儚げな夢の世界へと誘う。〈マシュケナダ〉でも知られるタンバ・トリオの演奏をバックに、時には不協和音も混じる独特かつ複雑で斬新なコーラス・アレンジを、その少女のような無垢な歌声で事も無げに軽やかに、そして美しく聴かせてくれるところに涙してしまう。(ジョビン)

CAETANO VELOSO & GAL COSTA 
『Domingo』
 ユニバーサル(1967)
ジョアン・ジルベルトに憧れて音楽を始めたカエターノ・ヴェローゾとガル・コスタ。後にブラジル音楽史上、重要なキーパーソンとなるこの青年と少女は、今作ではただただボサノヴァへの愛情と日々の物語を綴っている。適度に短尺な楽曲群に名匠ドリ・カイミによるシネマ・ライクなアレンジ、モノクロームに映えるショッキング・ピンクのアートワークなどが今となっては出来すぎのボサノヴァ作品。翌年、2人はトロピカリズモの渦中に身を委ねることになる。(佐々木)

JOAO DONATO
『Quem E Quem』
 東芝EMI(1973)
エレクトリック・ピアノの跳ねるリズム、どこか飄々とした歌声。ボサノヴァを語るうえで欠かすことのできない、〈鍵盤のジョアン〉ことジョアン・ドナート。カエルの鳴き声をモチーフにした“A Ra”のようなモダンでユニークなものから胸キュンの刹那系バラードまで、ソングライターとして多彩なレンジを誇る〈ミュージシャンズ・ミュージシャン〉である。近年はヒップホップのマルセロD2など若い世代からのラヴコールも絶えず、勢力的な活動を展開中。(佐々木)

SONIA ROSA WITH YUJI OHNO
『Spiced With Brazil』
 ソニー(1974)
10代半ばでジョアン・ジルベルトから直接ボサノヴァを伝授された天然少女、ソニア・ホーザは突然来日。そのまま日本で活動を続けて〈ボサノヴァの女王〉の名を欲しいままにした。今作は、〈ルパン三世〉などでも知られる大野雄二と組んで作り上げた和製ジャズ・ボッサ名盤。グルーヴィーに再構築した〈イパネマの娘〉の大胆なカヴァーや高速スキャット、そして何よりもファニーでキュートでキッチュで元気いっぱいの彼女のヴォーカルにKOされ続けます。(ジョビン)

小野リサ
『ボッサ・カリオカ』
 東芝EMI(1998)
日本のポップ・フィールドにおいてこれだけボサノヴァが浸透したのはこの人の尽力があってこそだし、同時にブラジル人ミュージシャンへ与えた衝撃も大きいだろう(先ごろ豪華キャストが参加したトリビュート盤もリリースされました!)。こちらはジョビンの息子パウロ、孫ダニエルを迎えてのカリオカ(リオっ子)気質が満載の、小意気なボッサ・アルバム。今作でその真髄を極めたリサは、古き良きアメリカ~ハワイ~イタリアを巡る新たな音楽の旅に出ることに。(佐々木)

Morelenbaum2/Sakamoto
『CASA』
 ワーナー(2001)
坂本龍一とチェロ奏者ジャキス・モレレンバウン、そしてその妻でシンガーのパウラによるボサノヴァ・ユニット。今作はアントニオ・カルロス・ジョビンの生家でレコーディングされた(一部スタジオ録音)ジョビン集で、かねてから〈ジョビンと僕は同じ音楽のファミリー〉と語る教授の愛情が生々しく伝わってくる。ボサノヴァの域を超えたクラシカルなアレンジによる解釈も新鮮だが、なによりもアットホームな暖かさが素晴らしい。これがサウダージです。(佐々木)

CELSO FONSECA
『Natural』
 Ziriguiboom/Crammed(2003)
ジルベルト・ジルやミルトン・ナシメントといったMPBの大物たちのギタリストとして、またマルチナーリアやモスカなど新世代アーティストのプロデューサーとして活躍してきたセルソ・フォンセカ。彼の最大の魅力はアコースティック/エレクトロニック、どちらの分野にも精通している点。サウンド・コラージュも同居するネオ・アコースティック感覚でボサノヴァを料理した今作も、バッチリ〈今〉の空気感に満ちてます。繊細でいて骨太な21世紀のボサノ盤!(佐々木)

naomi & goro
『Turn Turn Turn』
 333(2003)
ボサノヴァが本国ブラジルよりさらに成熟・成長・進化を見せているのがここ日本。そんな現在のシーンを考えるとき、その圧倒的なクォリティーと完成度で群を抜いた存在なのがこの男女デュオ。余計な力がまったく抜けたnaomiの淡々とした歌と、透明感があって聴く者を魅了せずにはいられない声。〈匠〉と呼べる洗練の極みを聴かせるgoroのギターワークと、ポツリポツリと呟く控えめで小さな声。まさしくボサノヴァを体現する極上の音世界。(ジョビン)