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第4回 ─ アメリカ音楽を心から愛し、自分たちの全てを捧げたストーンズ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2004/08/12   21:00
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin’ on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ久保憲司氏の週間コラムがbounce.comに登場! 常に〈現場の人〉でありつづけるクボケンが、自身のロック観を日々の雑感と共に振り返ります。

2004年8月10日(火) THE ROLLING STONES『Get Yer Ya-Ya's Out!』

  先週聴いたボブ・ディランの『Blonde On Blonde』は、ロックロールの本質をとことんまで引き出そうとしたアルバムだったので、今日は本当にアメリカの音楽に憧れ、愛したアルバムを聴こう。ローリング・ストーンズの『Get Yer Ya-Ya's Out!』。中期の傑作ライヴ・アルバムだ。出だしのMCを聴くだけで、胸が熱くなって興奮する。ヘロインのせいなのか、ボロボロになったキースの姿と、その後ろのドラム台に無造作に置かれた何十本ものギターが目に浮かぶ。でも彼らのアメリカ音楽に対する愛の深さは誰にもかなわない。

 2曲目はチャック・ベリーのカヴァー“Carol”だ。チャック・ベリーのドキュメンタリー映画「HAIL! HAIL! ROCK'N'ROLL」を思い出す。チャック・ベリーはこの映画の中で、キース・リチャーズにリード・ギターを何度も直させる。キースは傍若無人なチャック・ベリー(黒人の彼は、〈搾取されてきた〉という思いがあるからこういう理不尽な行動を取るのだろうか?)に「師匠だから仕方がないか」と何度も我慢するけど、この部分では3回ぐらい間違いを指摘されて、最後にはおもっきりトチって「アー」とキレる姿を見せる。キースがここでキレているのは本当に間違えたことを指摘されたからだろう。ここに関してはチャック・ベリーの方が正しい。やっぱチョーキング・アップから入った方がかっこいい。

 細かいR&Bファンは「ストーンズは本物じゃない」と言うんだろうけど、日本人でこんなに本物のロックンロールをやった人がいるんだろうか? 5曲目の“Midnight Rambler”のシャッフルから入って8ビートになるあの感じ、これぞブラック・ミュージックだ。ダンス・ミュージックだと思う。そして4曲目ロバート・ジョンソンのカヴァー“Love In Vain”。ぼくはいまだにロバート・ジョンソンが本当に何なのか分かっていないケツの青い男だ。でもストーンズは大学教授のようにぼくにブルースとは何かなのかとヒモ解くヒントを教えてくれる。エリック・クラプトンもそうだ。

  そしてストーンズはおんなじ所に止まっていない。3曲目“Stray Cat Blues”など「レイナード・スキナードに南部とは何なのかを教えたのは俺たちだ!」とでも言わんばかりにロックの聖地を探してどんどん南に行く。77年の『Love You Live』で完成されるストーンズの旅、このアルバムはその通過点なのかもしれない。でも、こんなに興奮するライヴ・アルバムがあるだろうか!? そして、今のストーンズはそれの拡大再生産なのかもしれないが、こんなに本当にアメリカの音楽にすべてを捧げ、今も愛し、尊敬している人たちがいるだろうか!? ぼくはあの1万5千円ちかいDVDを買いにいく。