『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る週間日記コラム。今週は、リバティーンズが中心となって作られたコンピ盤『Bring Your Own Poison』をご紹介。
2005年1月10日(月) V.A.『Bring Your Own Poison』
今週はロンドンのライヴハウス、リズム・ファクトリーのイベント〈Bring Your Own Poison〉のライヴ・オムニバス・アルバムを紹介します。リバティーンズ、リバティーンズのピーターのバンド ベイビーシャンブルズ、歌詞をちょっと聴くかぎりでは政治的なラムズ、チープなリズムマシーン(名前もチープだ)とゴスなギターリフがかっこいいセルフイッシュ・カント、ルックスがかわいいパデントンズ(全員可愛かったらいいんだけど、一人おっさんがいる、でもそういうのが今のバンドっぽい)なんかが参加している。
このオムニバスは、今のイギリスのバンドの盛り上がりを凝縮しているようで聴いていて楽しい。パンクが盛り上がった70年代後半も『Live at the Roxy London』(ワイヤーが入っていてかっこ良かった、Xレイ・スペックスも入っていた)や『Short Circuit - Live At The Electric Circus』(ジョイ・デヴィジョンが入っていた)、日本でも『東京ロッカーズ』、『東京ニューウェイヴ 79』などあった。こういう、〈クラブやライヴハウスで起こっていること〉を紹介してくれるCDがいつの時代もリリースされればいいのに。ブリット・ポップの時代は出なかったな。メンズウエアやエラスティカなどがよくたむろっていたライヴハウスがカムデンにあったような気がしたけど。
クリエイション・レコードのオーナー、アラン・マッギーはグレイト・ポートランド・ストリートの小さなパブで毎週この〈Bring Your Own Poison〉のようなイベントをやっていた。その利益でクリエイションを始めた。その後、全てを売っぱらったマッギーはポップトーンズを始める前に初心に帰る気持ちを込めて〈Death Disco〉というパーティーを始めたのだ。
〈Bring Your Own Poison〉は2フロアーあるイベントだそうで、一つはこのCDに入っているライヴで、もう一つがテクノなどのダンス・ミュージックのフロアーなんだそうだ。なんかこういうのかっこいいな。日本でも誰かそういうの始めないかな。200人くらいで楽しめるパーティー。もうどこかにあるんだろうか。
アルバムには、最後の曲としてリバティーンズのピーターの弾き語りが入っていて、それが終わるとシークレット・トラックとしてジ・オンリー・ワンズの“Another Girl, Another Planet”の演奏が始まる。しかも声はあの懐かしいピーター・ペレット。興奮した。ボブ・ディランというか、モット・ザ・フープルのイアン・ハンターというか、バズコックスのピート・シェリーにも通じる切なく高い声だけど、どこか確固とした揺るぎない意思を持つ声。弱いけど、強い。そんな精神だからジャンキーになるんだよ。リバティーンズがクラシック・パンクをリスペクトしているのは知っていたが、ピーターはやっぱりピーター・ペレットなんかが好きなんだ。だからあんたドラッグするの? なんか悲しいけど、うれしいよ。
ぼくはジャンキーなんか嫌いだけど、ジャンキーの精神性は好きだ(こういう言い方はおかしいかな)。全てを失うこと、そこに行こうとする勇気、学校の先生や親が絶対そこには行ったらだめだといった世界。でもなぜぼくたちはそこに惹かれるんだろう。そこにピュアなものがあると思うからだろうか? ジャンキー・ソングの名曲、ジョニー・サンダーズの“Chinese Rocks”の歌詞を40歳にして初めて読んだけど、笑った。〈金目のもんはみんな質屋にある。金持ちになるはずだったけど、彼女はシャワールームで泣いてる〉。こんな生活絶対いやだけど、つい気になって横目で見てしまう。ヒップホップもブルースもこの世界を歌ってるし、落語もそうだろう。話が変な方向に行ってしまった。今週はこの辺で。