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第26回 ─ 結成25年を経て今なお評価が高いパンク・バンド〈ワイヤー〉のライヴDVD

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2005/01/20   23:00
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る週間日記コラム。今週は、ワイアーが79年に行ったライヴを収めたDVDをご紹介。

2005年1月14日(金) Wire『On The Box:1979』

  退屈な郊外に住んでいる女の子が、そこから抜け出したいという思いを虚脱感あふれるエピソードでつづるテリー・ツワイゴフの「Ghost World」の主人公が「私はオリジナル・パンクが好きなのよ。あんた達とは違うのよ」とバズコックスをかけるシーンが出てくる。いいなと思った。ぼくも20年以上前パンクで、今も〈クボケンといえば皮ジャン着て、タバコを吸っているような人〉と思われている。ほとんどの人がパンクというのをそういう風に思っているけど、ぼくにとってパンクとはアートのような存在だった。バズコックスは全員オカマのバンドで、だから彼らの愛の不毛を歌った曲はよりいっそう美しかった。

 パンクとはニヒルだった。その中でも一番ぼくが好きなバンドがワイアーだった。「楽器なんか弾けなくてもいい」と公言し、唯一バンド経験のあったメンバーは今までやったことがない楽器を選んでドラマーになった。ブリットポップの時はメンズウェア、エラスティカに多大な影響を与えたし、今盛り上がっているイギリスのロック・シーンにもどことなくワイアーの匂いがする。ダンス・ミュージックでもフィッシャー・スプーナーなんかが普通にワイアーの曲をカヴァーしている。

  (10何年くらい前にもあったけど、そっちじゃなくて)今回のワイアーの再結成はパンク時代の彼らが持っていた感覚を思い起こさせてくれる。ぼくは昔のバンドが再結成しても、当時のCDを聴いている方がいいかな……と思う性格なので、去年行われたワイアーの来日公演には行かなかったのだが、どうやらとてもいいライヴだったみたいだ。『Send』というニュー・アルバムやミニ・アルバムもリリースしている。それも買ってみようと思う。

 そんなワイアーの近況をまったく知らないぼくなんだけど、最近79年のテレビ・ライヴを録音したDVDとCDのセットを買った。79年に見たかったワイアーのライヴがぼくの目の前で展開される。なぜ今ワイアーが再評価されるのか、そんなことはどうでもいい。ぼくはその頃からずっとワイアーが好きだったのだ。

 かつてレコード契約を切られた彼らは、二組に別れた。ヴォーカルのコリン・ニューマンのポップというか、シド・バレットのような素晴らしいメロディ組と、グレアム・ルイス、ブルース・ギルバートによるドームという実験音楽組に。この2つが共存していたのがワイアーだった。そこがかっこよかったのだ。共存させたのがパンクだった。ワイアーが今再評価されるのはこのノイジーな部分と、ブリティシュならではのメロディの融合だとぼくは思う。

  ちょっと話が逸れるけど、コリン・ニューマンのソロもよかった。あの白黒のやつ、鯉のぼりのおもちゃをひきずっているジャケットのアルバム(注:セカンド・アルバム『Provisionally Entitled the Singing Fish』)、どこかで売っていたら買いです。ドームは昔、元スロッビング・グリッスルのクリス&コージーと出演したイベントで見たことがある。ドームがミニマルなエレクトリック・ミュージックを演奏している間に人がゆっくりと天井からおりてくるという内容だった。一方のクリス&コージーは、クリスが演奏している間、白いレオタードを着たコージーがオナニーするというもので「すごいしょうもないな」とぼくが友達に言うと、その友達は「おい、よく見てみろよ、コージー濡れてるぜ」と驚いていたのを思い出した。すいません、どうでもいいエピソードで。一回どこかに書いておきたかったのです。

 DVDに話を戻します。ストラングラーズのジャン・ジャック・バーネルばりにベースを弾くグレアムがワイアーでの(デヴィッド・)ボウイっぽい曲を歌っているのにはびっくりした。ブルース・ギルバートが信じられないくらいギターが下手なのにも驚いた。今は上手くなっているんだろうか? コリン・ニューマンが最後の方で踊るのだけど、イアン・カーティスに似ている。どっちが先なんだろう、というか、コリンの方が先だよな。この踊りの元はデヴィッド・ボウイだろうけど。

 たぶん20年後もぼくはワイアーが好きだろう。もうひとつ好きなパンク・バンドがある。サブウェイ・セクトだ。そっちも初期のテレヴィジョンぽい時のライヴとかデモ・テープがリリースされたらいいなぁ。後ポップ・グループの初期のライヴなんかも聴きたい。テレヴィジョン以前にトム・ヴァーラインとリチャード・ヘルがやっていたネオン・ボーイズのデモはアルバムとして発売されないだろうか。音源として何曲あるのか知らないけど。今挙げたようなバンドを元ネタにしたバンドが出てきたりしたらかっこいいのかな。なんて安易なことを思っています。話がグダグダになってしまったので、今週はこの辺で。