『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る週間日記コラム。今週は、NMEも大注目のUKバンド、ジ・アザーズのアルバムをご紹介!
2005年02月20日(日) The Others『The Others』
キルズ、マーズ・ヴォルタ、リトル・バーリーと、興味あるアーティストが立て続けにいいアルバムをリリースしましたが、今ぼくが一番興味を持っているのは先月末にアルバムをリリースしたアザーズです。はじめはなぜ惹ひきつけられるのかよく分からず、「オリジナル・パンクとゴスを足して2で割ったバンドなのかなー」と思っていたんだけど、NMEの表紙にもなって何となくアザーズというバンドの姿が見えてきて以来、彼らのことが気になって仕方がない。
英語のインタビューなので完全には読んでいないんだけど、好きなものに囲まれた彼らの写真を見るだけで、どんな奴らか一発で分かる。フォール、ソニック・ユース、リチャード・ヘル、ジョージ・オーウェル、JT・リロイ、そして自分が書いた数々のリリック。周りの人に「アザーズってどういうバンド?」と聞くと「パンク」という答えがよく返ってくるのも納得だ。今のイギリスのシーンのアティテュードを代表するバンドだと思う。ブリット・ポップ前夜、オアシスは〈庭の手入れとか、そんなことはどうでもいいんだ。俺はずっとロックンロールしていたいのだ〉と歌った。当時イギリスはバブル前で、家など年とったら何となく持てるものだったのだ。そんなことはどうでもいいことだったのだ。その証拠に、オアシスの一枚目のジャケットに写っている家はボーンヘッドがペンキ屋をしながら、そしてバンドの練習も一生懸命しながら買った家なのだ。マンチェスターだけどけっこういい家でしょう。日本のバンドでデビュー前に一生懸命練習しながら家を買うことなんて出来る? 真面目に月に20日働いて、10日バンドに命燃やしても家なんか買えない。イギリスっていい国だったのだ。
60年代からそれは変わらない。ローリング・ストーンズなんかも経理会社で9時から5時まで真面目に働いて毎週火曜日とかアレックス・コーナーのクラブのギグに7時から出演して、土曜日、日曜日はロンドン郊外のダンス・ホールなどに出て腕を磨いていたのだ。残業なんて絶対ない、休日出勤なんて絶対ない国だから出来たのだ。
でもそんなイギリスも変わりつつある。今イギリスでは家なんて買えない。日本だと5000万円くらいでなんとか家を買える。2500万円で何とか住めるマンションが買える。30年ローンだけど。イギリスも20年前、いや10年前までもそうだった。利子が高くないから、10年ぐらいで払い終えることが出来ていた。でも今は違う。ロンドンでは2億円くらい出さないと家なんて買えない、しかも郊外だ。だから20年前に家をロンドンで買った人は億万長者になっているのだ。何十万人という億万長者がイギリスに誕生している。前に紹介したリバティーンズのコンピ・ライヴ『Bring Your Own Poison』でバンド紹介をするMCが「俺の夢はバンドを紹介すること、これが終われば俺は家を買って、庭の手入れをして一生を終える」みたいなことを叫んでいた。そうだよ、もうイギリスではちんたらちんたら青春を楽しんで、年とったら家庭でももってのんびり楽しくやろうぜ。なんてことができなくなったのだ。ベイビー・シャンブルズの名曲“Fuck Forever”のように、永遠にやり続けるしかないのだ。
アザーズもそういうことを歌っている。日本でもそろそろ誰か叫ぶべきなんじゃないか。7万円のマンションに閉じ込められて、フリーターしながらバンド生活をするのか。それとも30年ローンを払い続けさせられて楽しい家庭を夢みるのか。鎌倉に引っ越して5万円の古民家に住んで、毎日五穀米食ってクウネルなのか。もっともっと他に答えはあるんじゃないか、アザーズはそういうことを歌っているんだと思う。