『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る日記コラム。今回は、3月2日に発売されたNUMBER GIRLのベスト盤をご紹介!
2005年3月2日(水) NUMBER GIRL『OMOIDE IN MY HEAD 1 ~BEST&B・SIDES~』
ページ・ビューが思ったほど稼げなく、今月から隔週になります、残念。「クボケン読んでいるよ」、「おもしろいね」、「感動した」などと言われるわりにはぼくって人気ないのです。ぼくが初めて出したエッセイ集「ロックの神様」と、十年前にブラッディー・ドルフィンズから出した写真集「WRONG OR RIGHT, IT’S ALRIGHT」は増刷されることはありませんでした。
しかし、10年という長い年月とはいえ、こうして3冊の本(上の2冊とブランキー・ジェット・シティの写真集「BLANKEY JET CITY SWEET DAYS」)を作ったことにより、何となく作家に成りたいという気持ちがむくむくと起こってきました。作家になるためには本が1万部くらい売れないとだめだ、メジャーな男にならないとだめだ。そうだ、次なるマーケットはインターネットだ。と、クールサウンドという携帯着メロ・サイトに待ち受け画面の連載とそのミュージシャンの思い出を毎週アップしていたのですが、そのうちにぼくの気持ちに変化が表れました。何百万人もの見ず知らずの人に自分の思いをぶちまけることよりも、そのうちの何人かでもいいから、ぼくの写真やそのバンドに対する考え方に共感をもってくれたほうが嬉しいと思うようになってきたのです。インターネット時代なのだから、毎週じゃなくブログみたいに一日一枚アルバムをレビューしていって、1000日で1000枚の自分なりのディスク・ガイド、自分なりのロック論、ロックの歴史を作ることができないかと思ってこの連載を始めたのですが、ぼくは毎週連載出来る器ではなかった。悲しい。毎週連載に復活出来るよう努力して面白い原稿書きますので応援してください。
……と、こんな男に向井くんは歌ってくれないだろうだろうな。NUMBER GIRLのMCで「ありふれた日常を生きる女の子に捧げます」というのが本当にかっこよかった。こうしてドバッーとナンバーガールの本当に短かった歴史を再び聴きなおしてみても、やっぱりかっこいい。後期のニュー・ウェイブのようなリズムの冒険と和な展開を、ぼくは「どうなんだろう?」と見ていた。しかし、こうして振り返ってみると向井君は間違っていなかった。“DRUNKEN HEARTED”を聴けば分かるように、NUMBER GIRLは始めからポリスなんかをうまく昇華し、キャプテン・ビーフハートやピクシーズといった異なるグルーヴ感を、手を変え品を変え自分たちのものにし、ぼくたちを楽しませてくれていたのだ。昔の日本のロック・バンドがこんなにかっこいいベストを出せただろうか? ルースターズやストリート・スライダーズなど、現在の日本のロックの基礎を築いてくれた偉大なる先人たちをディスることはぼくには出来ない。でも、正直こうしてNUMBER GIRLのリアルさに触れると、(日本のロックは熟成したという意味で)偉大なる先人たちよりも彼らは成長し、こんなかっこいいベストが出来たのだといいたい。
戦後ホリプロやナベプロが、スパイダースやタイガース、和田アッコさんで目指したことは、アメリカでの成功だった。ロックが生まれた国で認められること、3億人のマーケット、1ドル360円の時代にアメリカで成功することは巨万の富を得ることだった。進駐軍相手のジャズ・バンドのメンバーとしてアメリカを見ていた芸能プロ創設者の思いは敗戦によって全てを失った日本が世界で一番早い列車を作ろうとしたように、ただ勝ちたかっただけなのかもしれない。
音楽には勝ち負けなんてない、しかしこうしてピクシーズやハスカー・デューにも負けない素晴らしいベストを聴いていると、何度も書くが日本のロックも凄い所まで来たなと本当に思う。NUMBER GIRLの炎は消えてしまったかもしれないが、このベスト・アルバムはニルヴァーナのボックス・セットと同じくらい永遠に輝きつづけるだろう。