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第34回 ─ 魔法が切れてもなお輝きつづけるバンド、ニュー・オーダー

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2005/03/31   16:00
更新
2005/03/31   18:07
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文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る日記コラム。今回は、UKロック界の大御所、ニュー・オーダー4年ぶりの新作をご紹介!

2005年3月29日(火) New Order『Waiting For The Siren's Call』

  01年にリリースされたアルバム『Get Ready』で完全復活したと思っていたんだけど、今作『Waiting For The Siren's Call』で完全に復活というか、何かふっ切れたようだ。シングル曲“Krafty”は、エレクトロ・クラッシュの要素を取り入れたリズムから始まり、〈さすがニュー・オーダー、時代の目があるじゃないか〉と思わせながら……。でたー、ニュー・オーダーお得意の2コードをガーン、ガーンと弾くだけの楽曲。サビで一ひねりあるのかと思いきやそのまま終わってしまう。

しかし、いいんだ。涙する名曲は、たくさんコードがあればいいってもんじゃない。ボー・ディドリーなんて、ワン・コードで感動する曲を何曲も作ってきた。しかし、ジョイ・ディヴィジョンの頃から今まで本当に2コードだけで何曲も感動する曲を作ってきた彼らに敬服。歴史に残る名曲“Love Will Tear Us Apart”も3コードしかない。何百万枚と売った“Blue Monday”もF-C-Dmの本当に単純な3コードだ。あの独特なドラム・マシーンも打ち込み方間違えたか、何かスイッチ押したら暴走してあのリズムが流れて「これだー」と叫んだそうだし。名曲“Everything's Gone Green”も、実はアシッドきめた時の風景描写でしかなく、〈君の目は青い、君は緑、君は赤い目を持ってる〉ってアシッドきめたらそう見えるよ。それだけかい。でも何か凄いことを歌っているんじゃないかと思わせるのが彼らの魅力。

   ぼくの子供の頃はニュー・オーダーや、(彼らがジョイ・ディヴィジョン時代から在籍していたレーベルの)ファクトリーって神様のような存在だった。ドゥールズよりも偉い存在。ロバート・フリップは自分の音楽はグルジェフだと言った。イーノはサイバネティクスだと言って僕たちをケムにまいていた。ジョイ・デヴィジョンもニュー・オーダーもピーター・サヴィルのポスト・モダンなデザインでぼくたちをケムにまいていたのかもしれない。でも本当にジョイ・ディビジョン、ニュー・オーダーの音楽はロバート・フリップやイーノの音楽以上に僕たちに何かを語りかけているようだった。それはぼくにとってパンクよりも高尚な思想だった。でも本当の所は、ニュー・オーダーは部屋に色んな単語を貼ってそれを適当につなげて詩を作っていたそうだ(イアン・カーティスは違うらしいけど)。でもバーナードが歌うと、今作でもそうであるようにどんなネガティヴな単語でもポジティヴなメッセージに聴こえてしまう。イギリス北部の根性なのか、羨ましいと思う。

  キングス・オブ・レオンに「最高のベース・サウンド」と言われているピーター・フックのベース、そしてカンのドラマーに影響されたリズム・マシーンのような正確無比なドラム。ぼくは本当にニュー・オーダーが好きだ。ハシエンダとかファクトリーとか、ポスト・モダンとかそんな魔法は今やどこかに消えてしまった。たった2コードの音楽かもしれない。ただ適当に単語をつなげただけの歌詞かもしれない。でもまだまだニュー・オーダーはぼくの神様だ。いや、昔以上にニュー・オーダーの音楽はぼくの中で輝きだしている。