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第36回 ─ 現UKロック・シーンの象徴? ブリティッシュ・シー・パワーの傑作セカンド

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2005/04/27   17:00
更新
2005/04/28   17:05
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文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る日記コラム。今回は、UKシーンを彩る若手バンド、ブリティッシュ・シー・パワーについて。

2005年4月21日(木) British Sea Power『Open Season』

  「今イギリスのニュー・バンドがいい!」と、この連載で何度も書きましたが、また出てきました。ブリティッシュ・シー・パワー。2枚目『Open Season』で化けましたね。スコーンと抜けた傑作です。どんなバンドにも1度はおとずれるマジック・アルバム。こんないいアルバムを作ると次のアルバムが難しくなる……のはどんなバンドも通る試練ですが、ともかくこのアルバムは確実に名作です。BSPやったね! 何がいいってヤン(Vo&G)のサイケデリック・ファーズのような艶のあるハスキーなヴォーカルがいいのです。

 ニュー・ウェイヴ・リヴァイヴァルは、とうとうサイケデリック・ファーズまできましたか。サイケデリック・ファーズの1枚目はヴェルヴェット・アンダーグラウンドにサックス入ってパンクしたような名盤。売れ線を目指して最高のプロダクションで作った『Midnight to Midnight』は、同じアーティストが作ったとは思えない対極のアルバムですが、そっちも気持ちいい音をしています。これ今パクり所なんじゃないでしょうか?

  もちろんブリティッシュ・シー・パワーはそんなことは考えていないでしょうが。1枚目『Decline Of British Sea Power』からこの声ですもんね。デビューの頃はもうすこしコーラルとか、ダヴズみたいなことをやろうとしていたんだろうけど、今作は楽曲に命をかけた。誰もが心ときめかされるアルバムです。フランツ・フェルディナンドはマイナーな曲調で楽しませてくれてますが、ブリティッシュ・シー・パワーはスミス、アズテック・カメラやプリファヴ・スプラウトあたりのネオ・アコが持っていたメジャー・セブンスな心地よい響きを、古くさくならないようにうまく処理しているのがかっこいいです。

  リヴァティーンズの作品で、元クラッシュのミック・ジョーンズと共に完全復活した名エンジニア、ビル・プライスの手腕もあるのかな。ビル・プライスは色んなことするんだよな。セックス・ピストルズのあのダイナミックなドラム・サウンドはドラムをスタジオのコンクリートの上に直置きにして録音してたし。そんなドラム・サウンドに負けないようにジョン・ライドンのヴォーカルは楽器用のマイク(機種忘れた)で録ったりしている。セックス・ピストルズの歴史的名盤『勝手にしやがれ(原題:Never Mind Bollocks)』のメイキング・ビデオが出ているので興味ある人は見てみてはどうでしょうか。歴史的ロック・アルバムがどうやって作られたかよく分かって感動しますよ。パンクってバカにされる存在だけど、本物のパンクはそんなことない。

  ルー・リード、デヴィッド・ボウイ、レディオヘッドのトム・ヨークらが〈ブリティッシュ・シー・パワーいいじゃん〉宣言していますが、やっぱり歌詞なんですかね。悲しいかな、ぼくまだよく分からないんだよな。今研究中。ジ・アザーズなどはひねくれているのかもしれないけど、ストレートな表現が多いのでぼくぐらいの英語力でも楽しめる。でもブリティッシュ・シー・パワーは難しい。何とかもう少し英文学を理解できる男になりたい。どこかの大学に習いに行きたい、とここ何年間か切に思っている。本当はウイリアム・バロウズなどのアメリカ文学を勉強したいんだけども。エコー&ザ・バニーメン、ティアドッロップ・エクスプローズなど子供の頃に大好きだったバンドの英語の歌詞の意味をもう一度完全に勉強し直したい。ブリティッシュ・シー・パワーはそうならないように今から勉強したいと思います。

 ジ・アザーズ、フジ・ロックに来るカイザー・チーフス、そしてまだシングルしか出てないけどパディントンズ、ドッグスなど、好きなバンドがたくさん出てきて、調子に乗って何でも「好きだ!」と言ってCD買っているけど、ルースターやマルーン5などまで行くと40過ぎのオッサンには危険だ。自粛しないと。でもブリティッシュ・シー・パワーは間違いなく14歳の子も40歳のオッサンも楽しめます。聴いてみてください。