『NME』『MELODY MARKER』『Rockin’ on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ久保憲司氏の週間コラムがbounce.comに登場! 常に〈現場の人〉でありつづけるクボケンが、自身のロック観を日々の雑感と共に振り返ります。
2005年6月21日(火) Foo Fighters『In Your Honor』
デイヴ・グロールほんとマジやばい、尊敬する。そろそろ打ち止めだろうと思っていたら、今までの作品を超えるアルバムを難なく作りましたね。「一度頂点を極めた奴はもう頂点に立てない。傍観者としてシーンをサポートしていくのだ(Byジョー・ストラマー)」なはずじゃないのか? 40歳のぼくも頑張ればなんかやれるのか? ぼくは一度も頂点に立ったことはないけど(笑)。
イギリスのラジオで“Best Of You”がかかった時、「誰だー!このカート・コバーンのようなセクシーで切なく、訴えるようなヴォーカルを持った新人はー!?」と思った。さらに音もよく、これは新しいなと思っていたら、フー・ファイターズだった。本当にびっくりした。バンド10年目って普通マンネリになるよ。自分の培ってきたものを拡大再生産するんじゃないかい。U2にしてもネタ切れになって、アメリカに寄っていったり、ヨーロッパに戻ったり、ディスコしたり、原点に帰ったりするんだぞ。何だこの能天気さは、ぼくの心を洗うかのような清々しい風。カート・コバーンにこの無邪気さがあればな、いやあったはずなんだけどな。
デイヴ・グロールもコートニー・ラブもカートの素晴らしい作曲方法を学んで花開いたんだとぼくは思う。特にコートニー。暗いインディー・バンドだったホールがメガバンドになった理由は、カートの作曲方法を自分のものにしたからなのだろう。ギターのコードを鳴らし、そこに自分の言葉と自分のメロディをのせる。ほとんどワン・コードのようなメロディ、でもそれが素晴らしいのだ。サビが欲しければもう一個リフを付け足すようにメロディを考える。もしくはそのまま突っ走る。ブルースマンのように自分の気持ちを歌うのだ。
デイヴ・グロールの歌にもそのような気持ちよさを感じる。デイヴはそれをニュー・ウェイヴ風とか、ポップとかにうまくパッケージしてきた。そして今作『In Your Honor』は、これが最高級のアメリカン・ロックだとデイヴが自信満々に言っているようだ。そしてその通りだと誰もが思うだろう。ガンズ&ローゼズのようにハード・ロックの復活とか、ニルヴァーナのようにパンクからの叫びとかそういうバッググラウンドを持たずしてフー・ファイターズはロック・シーンの頂点に立っている。
かといって、ピーター・プランプトンやチープ・トリックのように音楽だけなんです、他には何もいいたいことはないんですと言って頂点に立っているバンドでもない、全てを分かって頂点に立っているのだ。それはカート・コバーンが求めていたものなんじゃないだろうか。かっこいい音楽をみんなに紹介したいんだという思い、かっこいい音楽で世の中をよくしたいんだ。
ニルヴァーナが最後にレディング・フェスでトリをつとめた日のメンツをみればいい(調べてみてください)。フェスというのは基本的にトリのバンドのものだ。でもここまで自分の好きなバンドで固めたフェスの1日があっただろうか、ないよ。あの時ニルヴァーナがとんでもなくビッグだったから、むちゃが出来たんだろう。あの〈ニルヴァーナ祭り〉とでも言いたくなるような楽しい一日を思い出すと、カートの音楽ビジネスへの強い思いが今も胸を締め付ける。
ノラ・ジョーンズ、ジョン・ポール・ジョーンズが参加しているアコースティック・セットはまだあまり聴いていないので間違っているかもしれないけど、みんなが言うほどよくはないよね。ご愛嬌という感じかな。みなさんの感想も聞かせてください。でも今、フー・ファーイターズが最高級のアメリカン・ロック・バンドということに間違いはない、フジ・ロックも楽しみだ。