『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る週間日記コラム。今週は、Rケリーとミッシー・エリオット、ブラック・ミュージックの最前線にいる2人をまとめてご紹介!
2005年8月2日(火) Rケリー『TP.3 RELOADED』、Missy Elliott『The Cookbook』
とんでもない才能ですねRケリー。あり得ないペースで作品をリリースし、しかもそれが全て濃い傑作、まさにキング・オブ・R&B。通算11枚目『TP.3 RELOADED』は1993年リリースの〈愛と性について〉というテーマを12章で綴ったセカンド・アルバム『12 Play』、その続編『TP-2.COM』の更なる続編。マンネリになることなく飛ばしまくる。
スヌープ・ドック、ザ・ゲーム、ダンスホールのエレファント・マンなど豪華で多彩なゲストもRケリーの前では添え物のようになってしまう。しかし今回の目玉は何と言ってもRケリー自ら出演した、本人曰く『ゲットー・オペラ』という5部構成の20分にも渡る長編プロモ・クリップ“Trapped In the Closet”。Rケリーが全ての登場人物の言葉、気持ちを歌にするんだけど、もう古今亭志ん生の世界。人間国宝の域。“なんでコンドームが俺のベッドにある~”なんてフレーズもRケリーにかかれば超セクシー。20分間聴き惚れてしまう。口承文化、これぞブラック・ミュージックなのだ。これはロック・ファンだろうがなんだろうが聴いてもらいたい。本当にビックリすると思うよ。
R&B、ソウル・ミュージックとはなんなのか子供の頃から悩んでいた。シンコー・ミュージックから出た『スウィート・ソウル・ミュージック』には、見事にそれが書いてあった。悪魔の音楽ブルースと神聖なるゴスペル・ミュージック、この2つは決して相容れないものだった。しかし、黒人たちは真実を求めるため、愛とは何か、なぜ愛は気まぐれなのかを探す為にこの両者をくっつける革命を起こしたのだ。それがR&Bでありソウル・ミュージックなのだ。
Rケリーが歌い続けているものはこれなのだ。なぜ愛は永遠でないのか? それは3作目になろうと、答えはでない。20分の長い曲は次の章につながる。まだ続きがあるのとびっくりしたが。その手口を商売と思う人は思えばいい、愛とはなんなのか、そんなものに答えはないのだ。マーヴィン・ゲイも悩み、その前に倒れていった。もう白人たちはそんな恋の不思議さにここまで切実に歌わなくなってしまった。でもブラック・ミュージックはぼくたちに恋の不思議さ、愛の強さ、弱さを教えてくれるのだ。そこに女も男もメロメロになるんじゃないだろうか。この文章と似たようなことは、きっと70年代のソウル・ミュージック全盛の頃に誰かが書いているんだと思う。
Rケリーはまだまだ歌いつづけるだろう。ソウルはバラードの形態を取り、コール・アンド・レスポンスのパターン、ヒップな隠語や抑揚、メリスマ唱法といったゴスペルおよびブルースに独特の技法を擁する。ソウル・ミュージックは完全なる声の芸術だ。Rケリーは芸術家である。
……と言いながらも「あんた何グダグダ言っているのよ!」と、男の弱さに喝を入れるのがミッシー・エリオットなのだ。マドンナにしろ、カイリー・ミノーグにしろ、何にしろ、女は偉い。オカマちゃんたちが好きな女は男に媚びない女、尊敬を込めて言わせてもらうと〈ビッチ〉なのだ。
ミッシーのサウンドを単調とか何とか言う人たちは本質が分かっていない。この音の凄さを、そしてこのぶれなさがミッシーの強さというのも。『The Cookbook』なんてタイトルつけて、今回は色んなゲスト入れて、色んな素材を料理するわよてな感じを装いながらも、ますますバック・トゥ・ベイシックにエレクトロ、ヒップホップ前夜の興奮だ。そして今風に誰よりもドラッギー。
“Lose Control”なんて、バンバータの“Planet Rock”が途中からそのまま始まりそうだ。〈ティンバランドの808のへヴィーなキックがあれば勝つ〉とミッシーがラップするように、プロ・トゥールスなんて全然要らない。808というリズム・マシーンとミッシーの声があれば全て成立する。ブラック・ミュージック万歳! ビッチ万歳! 男は何だかんだいいながら強い女性の元ですやすやと眠るのだ。Rケリー、ミッシー・エリオットはどんどん進化し、退化し、強くなっていく。それがブラック・ミュージック。ぼくたちは追いかける事しか出来ない、一生追い抜けない。だからブラック・ミュージックはかっこいい、だからぼくは永遠に聴き続ける。