『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今週は、デンマークの凸凹コンビ、ジュニア・シニアの新作をご紹介!
2005年8月28日(日)Junior Senior『Hey Hey My My Yo Yo』
昔、「米国音楽」の仕事でカジくんにくっいてスウェーデンのトーレ・ヨハンソンのスタジオに行ったことを思い出しました。ジュニア・シニアはデンマークのバンドなんですが、トーレのスタジオはスウェーデンといっても中心地よりデンマークに近く、日本から行く場合は、コペンハーゲンの空港に行ってそこからフェリーか何かに乗り換えるんです。
その頃はまだカーディガンズもイギリスでブレイクしていない時期で、何となくスウェーデン・ポップの人たちを「すぐ消えてなくなるだろう」と思って真剣にとらえていませんでした。すいません。本当はトーレやスウェーデンのミュージシャンのヴィンテージな機材に対する愛に感動していたのですが、ちょっとうさん臭いと感じて、距離を置いてしまったんです。まだそんなに成功していないアーティストたちが高価な機材を集めることができて、さらに自分たちのスタジオを持っていることに対し、訝しがっていたのです。本人たちはコマーシャルなどヨーロッパのメジャーな仕事もしているとは言っていたけど、古い機材とはいえイギリスなんかと比べてもひけをとらないいいスタジオだったので……。でも今はよく分かります。あんたたちは本物だったと、そしてそのこだわりが今も生きているのだと。
しかし北欧の人たちは凄いですよね。ヴィンテージな音の感じもさることながら、このジュニア・シニアの方法論なんかは「これがあったか!」という感じです。1枚目『ビートを止めないで(洋題:D-D-Don't Don't Stop The Beat)』にはディーヴォのようなロッキンな感じの曲が後半にたくさんあったのですが、今作『Hey Hey My My Yo Yo』は『ビートを止めないで』でブレイクしたダンスな方向性をうんと押し出した、よりファンキーなアルバムになっています。延々とギターが主導していく感じは変わらずかっこいいです。ポリシックスもこっちの方向に行ったらいいような気がするんですけど、どうでしょう?
そんでちょっとヘタクソなラップでも一生懸命やっている所が可愛い。こういうのを聴いていると日本人ももう絶対英語でやらないとダメだと思わされます。英語の音楽だから英語でやる。その愛が重要なんだとジュニア・シニアを聴いて思いました。聴いてきた音楽が英語なんだから、歌うなら英語だろと。英文学が好きだったらやっぱり英語で小説書かないと意味がないような気がするんです。どんだけウイリアム・バロウズが好きだからといって、それの日本語版みたいな小説書いてもそれは同じ土俵には入れないでしょう。そりゃSFやミステリーならフランス語だろうが日本語で書いてもいいと思うんですけど、英文学ということなら英語でやらないとだめな気がするんです。
ジュニア・シニアとかハイヴスとか、今の北欧のバンドの頑張りにはそういう所を感じます。自分たちの大好きなアーティストが使っていた機材を集めて同じような音を出すように、英語で歌う。そしてそういうことを当たり前にやりながら、その好きだったアーティストよりも前進しようとする。そんなこと彼らは一言も言わないけど、ジャクソン5のようなガチャガチャした楽しい音楽の向こうにぼくはそういう熱さを感じてしまいます。