『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、12年の歴史に幕を下ろす青山のクラブ、マニアック・ラヴに感謝と敬意を込めて。
2005年11月22日(火) Jeff Mills「EXHIBITIONIST-A Jeff Mills MIX」
青山の老舗クラブ、マニアック・ラヴが今年の12月を持って閉店する。一つの時代が終わってしまったなという残念な気持ちです。ケミカル・ブラザーズ、ジェフ・ミルズ、ファットボーイズ・スリムは、大箱を連日で埋めてしまうアーティストなのに、日本にくれば一日はマニアックラブでやりたいと願った。それは彼らがクラブの本質はなんであるかを知っているからだ。
もう何年も前からクラブでのIDチェックが厳しくなった。クラブから未成年っぽい人たちが消えて何年にもなる。16歳の子供が夜通し遊ぶのは悪いことだ。でも18歳の子供は? 暴力温泉芸者、ヘア・スタイリスティックス以外に、作家としても活躍している中原昌也くんは、これは石原都知事の陰謀だと嘆く。でも、ぼくはそんなことないだろうと思う。ぼくが16歳だったら怒ってるんだろうけど、べつに20歳からしかクラブに行けなくっても仕方がないんじゃないだろうか。アメリカやイギリスではそんなの当たり前の話だ。もしぼくが政治家でも、ちょっと前によく目にしていた、深夜の道玄坂にたむろする若者を見るとなんとかしなあかんと思うだろう。
でも、ぼくの友達のレコード屋のオーナーが「昔は16歳とかそういう多感な時期にクラブに行って今まで聴いたことのない音に衝撃を受けた。そんな時期にそんな衝撃を受けると、彼らが大きくなっても、いつまでもその衝撃の虜になる。でも20歳を過ぎてクラブで新しい音楽を聴いても、その音楽にはそれほど夢中にはならない。だからレコードが売れなくなったのだ」と嘆いていた。ぼくはやっぱり、そんなことはないだろうと思っていたが、マニアック・ラヴの閉店の話を聞いて、何かが奪われていっているような気がした。
オーブのアレックス・パターソンも、イギリスの若者文化はクリミナル・ジャスティス・アクト(パーティーをさせない法律)やスクワット(不法占拠)をさせないための法律が出来てから、徐々に壊されていったと言っていた。ぼくは17歳くらいからずっと働いてきた人間なので、何が自由なのかよくわからない。スクワットしたり、自由気ままに遊んで暮らしてみたいなと思っていたが、一度もそういうことをしたことがない。本当は大学生や高校生のときにそういうことをするのかもしれないが、ぼくにはそういう時代がなかった。日銭を稼ぐことの方が大事だった。今だって、1年間くらいのんびりしたいなと思うことがあるけれど、その為にはどう考えても1千万円くらいの資金が必要だ。そして、のんびりする中から自分が本当にやりたいことを見つけたりするのは気持ちいいことだと思う。けど、無理だろうな。
ぼくの今の楽しみは、65歳になったとき毎月国から年金を7万円くらいもらっている自分を考えることだ。そのために毎月1万3千円くらいの年金を一生懸命払っている。あと24年も払わなあかんけど(笑)。本当は毎月3万円払ってもいいから老後に倍の14万円くらいもらえるようになればいいのになと思っている。民間の企業よりもぼくは国を信用している。65歳を過ぎたら沖縄に家でも買って、たまに原稿書いたり、写真を売ったりして毎月10万円くらいの稼ぎと年金がもらえればいいなと思っている。
なんの話だろう、ぼくは国家の一員として頑張っているといいたいのだ。そしてその一員が何とかあの風営法は変えれないのかなと思っている。弁護士や政治家に相談に行こうかなとも思っている。もちろん20歳までのほうが正しいと思う。でもその法律を18歳にしたところで世の中は悪くならないんじゃないですかと話し合いをすべきなんだと思う。
ジェフ・ミルズは彼のDJプレイを記録した「EXHIBITIONIST-A Jeff Mills MIX」のリリースにあたって、このDVDを未来の人たちが見たときに〈DJとはこういう職業だったのだ〉ということを伝える、タイムカプセルのようなものにしたかったと語っている。オーディエンスもクラブも何もないところでDJという職人が、アーティストが、ミュージシャンが、どういうものだったかというのを純粋に後世に残そうとして作った。アートのような作品だ。
このDVDを見て、どんどんとグルーヴが構築されていく音を聴いて、いつまでもそばに置いておきたい家宝のような作品だと思っていた。でもマニアック・ラヴ閉店の話を聞くと、ジェフの言うとおり、何百年か後にはDJというものがなくなってしまうのかもしれないと一方で思う。それは女帝を認めてしまったら何百年か後には日本の天皇制がなくなってしまうかも、という危機感みたいなものかもしれない。誰かのなにげない法案で世の中が、長く築かれた文化が変えられるのをぼくは憎む。そうならない為にぼくは少し動いてみようかなと思っている。マニアック・ラヴお疲れさまでした。そしてありがとう。あなたたちは日本を、文化を変えました。