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第62回 ─ メンバー間の確執と友情が描かれたレッチリの最新作『Stadium Arcadium』

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2006/05/18   15:00
更新
2006/05/18   19:56
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文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、レッチリ〈カリフォルニア3部作の最終章〉『Stadium Arcadium』について。

RED HOT CHILI PEPPERS 『Stadium Arcadium』

  レッチリのニュー・アルバム『Stadium Arcadium』が2枚組と聞いた時、不安だった。あの名作『By The Way』も〈曲多過ぎじゃない、後半はちょっとどうでもいいような曲もあったよなぁ〉と思った人も多いんじゃないだろうか? もちろん、2枚組ということでニュー・アルバムがとんでもないアルバムなんじゃないかという期待もあることにはあったのだけれど。それは04年の〈ROCK ODYSSEY〉で見せた新曲がフリー主導のアーバン・ファンクな感じで、そこにジョン・フルシアンテのニュー・ウェイヴ感が融合すればおもしろいことになるんじゃないかと思っていたからだ。

  『Californication』、『By The Way』という素晴らしいアルバムは、ジョンの音楽に対する情熱と、80年代イギリスのニュー・ウェイヴ(というか、ジョイ・デヴィジョンやニュー・オーダーなどのアメリカ的でないシンプルなコードやメロディー)をレッチリの音楽として表現したことにより輝いていた。そして〈ROCK ODYSSEY〉でフリーのやる気を見て、『Blood Sugar Sex Magik』以上のマジックが生まれるのではないかと思ったんだけれど、『Stadium Arcadium』は残念ながらそうはならなかったようだ。

 一曲目のシングル“Dani Carifornia”をラジオで聴いて、そのレイナード・スキナード風な出だしに、〈うーん、レッチリもついにネタが尽きたか……〉と思った。でも、何回も聴いたり、ギターをコピーしたりしていると、やっぱりこのアルバムは凄いんじゃないかと思いはじめてる自分がいる。これはやっぱりレッチリにしか作れない音楽なのだから。

  ジョンのあの突然の引退は、子供の頃から好きだったレッチリがスタジアム・バンドになっていくことへの嫌悪感からだったとされている。けれど、ぼくはやっぱり『Blood Sugar Sex Magik』のレコーディングで燃え尽きたからなんだと思う。やりたくもないツアーなんかせずに、永遠にあの燃え尽きるような感覚を味わっていたかったのだろう。『Blood Sugar Sex Magik』のレコーディングの模様を納めた傑作ドキュメントDVD「Funky Monks」の最後の場面で、丸坊主のジョン・フルシアンテが「今までの人生の中で初めて何かを成し遂げたという感じがする」みたいなことを言って車で、さっそうと消えて行くシーンを見ればそれはわかる。

  今出ているレッチリのインタビューでは、フリーとジョンが仲良くなかったという事実が書かれていて驚いた。ジョンが音楽をやめても、彼のことを心配して、定期的にセッションをして、またレッチリに戻る時期を見計らっていたのはフリーだったからだ。アンソニーの自叙伝「Scar Tissue」を読むと、最終的にジョンをバンドに呼び戻したのはアンソニーみたいだけど。このエピソードもいい。絵を売りながら細々と貧乏生活をしていたジョンを、アンソニーが楽器屋に連れ出し、60年代のストラトキャスターを買ってあげた。当時だと100万円くらい。そういうギターをポンと買ってあげて、またマジックが生まれだすという話は感動してしまう。

  仲がよかったフリーとジョンの関係が『Californication』、『By The Way』という名作の裏ではうまくいってなかったという話を聞くと、バンドって本当におもしろいなと思う。ジョンはもう音楽に取り憑かれていてなにも見えていなかったんだろう。

 『Stadium Arcadium』が2枚組になったのは、まだジョンとフリーの関係が完全に修復されていないからだったのだろうとぼくは思う。しかしプロデュサーのリック・ルービンがその弱点を見事にプラスに変えている。いやレッチリはいつでも自分たちの弱点をプラスにしてきた。それがレッチリではないか。それを生き様としてさらしてきたことにぼくたちはレッチリにロックを、かっこよさを感じてきたのではないか。『Stadium Arcadium』は『Californication』、『By The Way』という素晴らしいアルバム3部作を締めくくるに相応しい大作なのは間違いない。