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第83回 ─ 33年ぶりに新作発表! イギー・ポップとストゥージズの歩み

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2007/03/15   13:00
更新
2007/03/15   20:52
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文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、33年ぶりのニュー・アルバム『The Weirdness』を発表したパンクの祖、イギー&ストゥージズについて。

IGGY & THE STOOGES『The Weirdness』

  初めて聴いた時はロン・アシュトンの別バンド、デストロイ・オール・モンスターズみたいでちょっとしょぼいかなと思ったんだけど、よく聴くとロンのギター・リフが最高にロックンロールしていて第3期ストゥージズと呼ぶに相応しいアルバムだとぼくは思います。

  30年以上も経ってストゥージズが復活するなんて何か凄いなと思う。第1期が名盤『The Stooges』『Fun House』の頃の、ワン・コードのグルーヴィーで覚醒していくロックンロール。〈MAGIC ROCK OUT〉出演で来日した時のストゥージズの新曲を聞くかぎりではこの時期の延長線上になるのかなと思っていたんだけど、違った。

  第1期を象徴する名曲“No Fun”のメロディ・ラインはジョニー・キャッシュの“I Walk The Line”からいただいたと「Iggy Pop:A Passion For Living」というDVDでイギーは語っている。そして、ジョニー・キャッシュのメロディと自分のメロディを交互に歌いながら、どう自分の作品として作り上げたかというのを丁寧に説明しようとするのだが、フランス人のインタビュアーは英語がよく分からないのか、時間がないと思ったのか、このイギーの解説を止めようとする。ロック史に残る傑作が生まれる瞬間をイギーが披露してくれようとしているのに、このバカ・インタビュアーは……。涙が出るくらい残念だ。

話を戻そう。第2期ストゥージズは『Raw Power』で、これはジェームス・ウィリアムスンのメロディアスで破壊的なギターがいい。ダムドのブライアン・ジェームスにしろ、セックス・ピストルズのスティーブ・ジョーンズにしろ、イギリスで後にパンクを作る人たちは、このジェームス・ウィリアムスンのギターに一番影響されているのではないでしょうか。この時ロン・アシュトンはベースでした。ロンは元々ベース・プレイヤーだし。

正確にはこの時期のストゥージズはイギー・ポップのソロへの布石だったのかもしれない。イギーはデヴィッド・ボウイの事務所とソロ契約し、単身イギリスに渡ったが、事務所からの強い要望もあってバンドを呼び寄せ、この名作は作られた。当時同じ事務所だったルー・リードがソロで思ったほどの成功を収めなかったから、ボウイの事務所はイギーをバンドという形で出した方が売れると思ったのではないだろうか。

  『Raw Power』はヘンリー・ロリンズが「俺が権利を買い取ってミックス・ダウンをやり直したい」と言い続けてたくらい低音が足りなくて、その部分だけが残念と言われ続けたアルバムである。結局つい最近イギーがミックス・ダウンをし直したのだが、ぼくはオリジナルの方が好きだ。みなさんはどうでしょう? 聴き比べてみてください。

ヘンリー・ロリンズや当時のファンが言いたかったのは、ストゥージズの1枚目と2枚目がへヴィーだったから、『Raw Power』ももっとへヴィーにすべきだ、ということだったんだろう。でもぼくはポップになろうとしていた、けれども壊れそうだった『Raw Power』が大好きだった。

  こんな最高傑作を作りながらもイギーはこの後ドラッグ問題で74年と75年を無駄に過ごし、最後には自ら精神病院に入院する。そんな彼を見舞いに行ったのがデヴィッド・ボウイなのである。泣けるな。そして2人で名作『The Idiot』『Lust For Life』を作り、彼の長いソロ生活が始まるのである。かっちょいい。

で、何十年も経ってバンドで帰ってくるんだよな。ライナー・ノーツでイギーが「俺たちはみんな地域社会で居場所を失っていた、いわゆる非行少年だった。だからストゥージズっていうのは、ちょうど過激なテロリスト集団を作るような感じだったんだよ」と語っている。フレーミング・リップスのウェインもこれと同じことを言っていた。ここからパクってるな。

そんなテロリスト集団が自分たちの武器にしたのがロックンロールだった。一人のアーティストとして確立しようとしていたソロでのイギー・ポップは、そんなロックンロールを超えよう、超えようとしていた。でも50歳を軽く超え、自分たちの居場所も人生も確立したオッサンたちが、まだロックンロールをしよう、いやそれしかないんだよ生きていくためには、と言っているようで、この新作『The Weirdness』を聴くと元気になる。

  ストゥージズはフジロック出演が決まってますが、それまではライヴCDでも聴いておきましょう。公認海賊盤の『Metallic K.O.』、音が悪いかもしれないけどこれはマジで凄い。それから、ボウイも少しピアノ(キーボード?)を弾いている『T.V. Eye』(イギー・ポップのソロだけど)。この2枚をお勧めします。