今頃、DVD『American Hardcore』(キング)を観た。思い返せば80年代後半、どうやらアメリカにもハードコア・パンク・バンドがいるって事実をうっかり知ってしまった中坊のオレたち。しかし神戸市の郊外にまでそんな情報は届くわけもなく、あくまで想像!想像!&ノートの片隅にモヒカンの男の絵を描く! そんなルーティーンを繰り返す日々。だから〈MINOR THREAT〉を、〈ミノワ・トリート〉と読むなんて類いの誤差(もちろん正解はマイナー・スレット)が大量発生していたのだった……。
ということで、80年代米国地下音楽シーンで大爆発したものの、その実、思いのほか謎に包まれていたアメリカン・ハードコア・パンク・カルチャーの全貌。そいつを圧倒的な量の映像とインタヴューでスッポンポンにしてくれたのがこの作品だ。え? 知ってるって? いや、だってこのDVD、オレが20年かけてレコードを買い漁ってはチマチマ修正していたその誤差を一気に解決しちゃうんだもん! 参ったよ! で、時にハードコアの魅力として、極度にストイックor極度にハチャメチャ、しかしそのスキマからこぼれ落ちる〈マヌケ美〉というものがある。毎度そこに〈人間〉そのものを感じてヤラれてしまうわけですが、実はこの作品、そのあたりもしっかり押さえてます。ヤルね! 例えばブラック・フラッグ最後の女性ベーシスト、キラの発言から窺えるバンド恋愛事情、バタリアン・オブ・セインツとクロマグスのほぼ実話ナックルズな発言、ついでにSSTを辞めた人間がまさかのヴェンチャー・ビジネスで成功していた!という事実。これらはあくまで氷山の一角なんだけど、実はこんな話が何層にも積み重なって、今みんなの楽しんでいるアメリカのオルタナティヴ音楽があるって想像するとワクワクせえへんか?
で、観終わってから80'sテキサス・ファンク・パンクの雄、ビッグ・ボーイズの編集盤『The Fat Elvis』(Touch & Go)が無性に聴きたくなった。パンクもハードコアもファンクもニューウェイヴもいなたいスクラッチもエモの原型もヤバいアートワークも特盛り全部入り。クール&ザ・ギャング“Hollywood Swingin’”の必殺カヴァーを久々に聴いて、〈いや、ミクスチャーじゃない! ハードコア・バンドがレア・グルーヴやってるようなもんなんだって!〉との先輩の煽りにレコード屋への猛ダッシュで応えていた自分の姿を思い出していた。現代でも通用する超自由な気持ちが詰まった名盤。上記の2作品、全国の中学生諸君は必見&必聴だぜ。
サイトウジュン
東京から南をめざして、結局どこかに辿りついちゃった!オモシロ音楽――そんなんを無礼講な演奏でフロア&お茶の間に投下し続ける懲りない6人組のインストゥルメンタル楽団=YOUR SONG IS GOODのオルガン/リーダーその他モロモロ担当。東京生まれ、神戸育ち。現在、都合の良い時は関西弁の34歳。問答無用の三十路全力投球セカンド・アルバム『HOT! HOT! HOT! HOT! HOT! HOT!』(KAKUBARHYTHM/NAYUTAWAVE)はもちろんず~っとリリース中!!