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第100回 ─ 最強の〈箱バン〉スモール・フェイセズと、ガレージの本質を体現するハイヴス

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2007/11/15   20:00
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文/久保 憲司

「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、英国が誇るオリジナル・モッズ代表、スモール・フェイセズと、先ごろ新作『The Black And White Album』を発表したスウェーデン発のガレージ・バンド、ハイヴスについて。

  今さらで恥ずかしいんですが、スモール・フェイセズにハマっております。ポール・ウェラーが一番愛するバンドであること、ジュリアン・テンプルが「スモール・フェイセズのようにロンドンを歌ったバンドはいないのか」と友人に聞いてまわり、セックス・ピストルズに出会ったことなどのエピソードから、彼らのことはずっと気になってはいたんです。でも、中心人物のスティーブ・マリオットが、その後、アイドル的な人気者のピーター・フランプトンとハンブル・パイを結成していたり、編集盤は多いくせにどのアルバムがベストなのか全然分からなかったりすることから、ずっと「どうなの?」と思っていたのです。

「フーはニセモノのモッズ・バンドだが、スモール・フェイセズは本物のモッズ・バンドだった」とはよく言われることだけど、フーが史上最高に好きなバンドであるぼくは、それがどうしたとずっと思っていた。シングル曲を聴き比べても、フーの方が断然かっこいいと思っていた。

でも、いまデッカ盤の『Small Faces』を聴いてみると、断然スモール・フェイセズの方がかっこいい。フーとスモール・フェイセズは、よく一緒にツアーを回っていたらしいけど、こうやってCDを聴き比べると、フーは完全にスモール・フェイセズに食われていたんじゃないかと思う。

  それくらいデッカ盤『Small Faces』はヤバい、むちゃファンキー。スティーブ・マリオットのヴォーカルが本当に凄い。ジミー・ペイジがレッド・ツェッペリンを作る時、一番最初にヴォーカルとして考えたのがスティーブ・マリオットだったというのがよく分かる。9曲目の“You Need Loving”なんて完全にロバート・プラントだ。「ロッキング・オン」の12月号でロバート・プラントも「俺はスティーブ・マリオットみたいなエンターテイナーで完璧なピッチで歌えるシンガーじゃなかったから」と語っているし。当時のロバート・プラントも尊敬するシンガーが、グレッチのギターを持ってピート・タウンゼントよりかっこよくコードを弾いてシャウトするんだから、どんなバンドもひれ伏したと思う。

どれくらい凄いか検証するために、ぼくはフー、ゼム、ストーンズ、ビートルズ、ヤードバーズ、アニマルズ、キンクスと、当時の凄いバンドのデビュー・アルバムを買い直したんだけど、やっぱり『Small Faces』が一番凄かった。セックス・ピストルズのデビュー盤くらい凄い。

もちろん上に挙げたバンドのデビュー年には3年間くらいのズレがあるので、どのバンドが凄いとかは一概に言えないと思うんだけど、でも当時のバンドの一番最初の目的は全部同じだったんで、なんとなくは比較できるんじゃないかと思っている。当時のバンドは全てクラブ・バンドで、クラブでどれだけお客を集め、お客をどれだけ楽しませるかが全てだった。自己表現とかよりも、どれだけ素晴らしいジューク・ボックスになれるかが一番だったんじゃないかと思う。

これって、いまのDJの世界に似ているんじゃないかなと思っている。DJ界では〈DJ Mag Top 100〉というファン投票のランキングみたいなものがある。ロックの世界だったら絶対無理なはずの、この手の順位付けが許されてしまうのは、DJにはまだ〈営業〉という側面が強いからだろう。だから〈DJ Mag Top 100〉を見ていると、60年代のクラブで頑張っていたロック・バンドの熱気と同じものが感じられるようで好きなのだ。

……って長々と書いてきたけど、ぼくはスモール・フェイセズのことを書きたかったんじゃなくて、ハイヴスの新作について書きたかったんです。彼らのルーツであり、パンクの前身であるガレージ・サイケがどういう風に生まれたのかという話につなげたかったのだ。

ガレージ・サイケは、そんなスモール・フェイセズなどの〈ブリティッシュ・インベイジョン〉のバンドに影響されたアメリカのバンドが、アシッド体験を経てああいう音を生み出した、と言われているんですけど、でもぼくが思うに、アシッドを食ってもあんな風にはならないんじゃないか、むしろ食ったのはスピードだろう、なんてことを書きたかったのです。

でもこういうガレージ・バンドを聴いて感動するのは、ロックンロールよりもR&Bというか、黒人のファンキーさにすごく影響されているところ。一番のパンクのルーツと呼ばれるMC5のドラムを聴くと、むちゃくちゃR&Bなんですよね。ヴォーカルがアフロというのも、そういうことなんだと思う。

  ハイヴスの新作を聴いてかっこいいなと思うのは、彼らはちゃんとそういうガレージのルーツを理解しているというか、本質を分かっているからだと思う。ただノイジーにギターをかき鳴らして、大きな音で演奏するだけではなく、3コードの単純な音楽の中に秘められたマジックをよく分かっているんだと思う。日本からもゆらゆら帝国とかギターウルフとか、〈分かっている〉バンドがたくさん出て来ているけど、もっとハイブスのようなバンドが登場して来て、ニュー・ミュージックやJ-POPになるだけで、いつまでもロックにならない日本のポップ・マーケットを変えてほしい。