「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ジョン・レノンの妻にして前衛アーティストのオノ・ヨーコと、レズビアンにしてフェミニストのべス・ディットー率いるバンド、ゴシップについて。
ジュリアン・コープが日本のロックについて書いた本「JAPROCKSAMPLER」にハマってからというもの、ぼくはオノ・ヨーコさんに興味津々だ。子供の時は難しすぎてよく分からなかったけど、彼女の〈女は世界の奴隷か!〉というフェミニズムなメッセージや、〈ベッド・イン〉などの前衛的な芸術は、ずっとぼくの心の中に残ってきた。
「JAPROCKSAMPLER」によると、ヨーコさんはNYに行く前から、シュトックハウゼンやラ・モンテ・ヤングといった現代音楽家と交流があったそうで、スゲェと思った。ジョン・ケージが日本に来たときも、ヨーコさんがアテンドをかって出ている。当時のヨーコさんの旦那はジョン・ケージの弟子、一柳彗だったのだ。彼は、ヨーコさんとケージが日本にいる間に何かあるんじゃないかと思って嫌だったみたいだ。
ジョン・レノン率いるプラスティック・オノ・バンドのDVD『Sweet Toronto』もむっちゃ良かった。前半のジョンのロックンロールがあり得ないくらいいい。さすが世界一のロック・バンドのジョンである。共演しているエリック・クラプトンよりいいギターを弾いている。ジョンの声とギターだけで一晩中踊れる。
こんな凄い演奏中、ロックンロールを知らないヨーコさんは、ジョンの横で白い布をかぶって芸術作品のようにいるのが、怖いけど、凄い。私はステージ袖で見ているだけのロックンロール・ワイフになんかならないわよ、と言っているかのようだ。曲が終わる度にその布からヌッと抜け出して、ジョンに「次の曲はこれよ」と紙を見せる。本当に凄い。
やがてバンドは“Don't Worry Kyoko”や“John, John”といった曲で、ヨーコさんの世界に入っていく。そのアヴァンギャルドぶりは、ほとんどスロッビング・グリッスルだ。ジョンが前衛をやっているのを見ることができるだけでも、このDVDの価値はあるんじゃないだろうか。
フェミニズムとは何なのかということを、ぼくに一番分かり易い形で教えてくれたのはヨーコさんだったけど、では、今をときめくフェミニストであるベス・ディットーは、現代のヨーコさんになれるだろうか? イギリスでは、もうそれくらいの存在感を獲得しているかもしれない。そんなべス率いるゴシップのライヴ・アルバム『Live In Liverpool』を聴いた。
ゴシップを初めて聴いた時は、ヘタなゴス・バンドがソウルをやっているくらいにしか思っていなかった。でも、BBCラジオの開局40周年記念コンピ『Radio1:Established 1967』(名盤。イギリスとアメリカの若手アーティストがイギリスの音楽史40年を振り返っていて、最高に楽しめます)の中で、ジョージ・マイケルの“Careless Whisper”をカヴァーしているのを聴いてから好きになった。ベスはアレサ・フランクリンみたいなソウル・シンガーなりたいのではなく、子供の時からイギリスの音楽に憧れてたんだな、と感じたのだ。おデブちゃんで、きっとみんなにイジメられながら、遠い国イギリスの音楽に夢を見ていたんだろう、などと勝手に想像していたのだ。そして、彼女がレスビアンであり、本気で活動しているんだと気づいてからは、本当に好きになった。
ゴシップは、90年代のフェミニズムなムーヴメント、ライオット・ガールに影響されているというのもいいな。ブラッド・レッド・シューズなど、いまライオット・ガールな精神に影響されているバンドが出て来ているのは面白いと思う。ハードコア・パンクのストレート・エッジ思想もそうだけど、消えたと思っても、また復活してくるのがいい。しかもより強くなって甦ってくる感じがいい。
ライオット・ガールに影響されていたカート・コバーンでさえ、自分の妹がレズビアンだと知ってから、最後まで「レズビアンは治らないのか」と言ってたそうだからな。ベス・ディットー、まだまだ世の中大変だと思うけど、歌い続けてください。