「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、英国はブライトンより登場したギター&ドラムという編成の男女デュオ、ブラッド・レッド・シューズについて。
みなさん、「snoozer」誌の4月号は見ましたか? 特集になっている、デビュー・アルバムだけで綴るロックンロールの50年史を見ているだけで、こんなにもいいアルバムがたくさんあるのかと感動します。そして、表紙がケイジャン・ダンス・パーティというのにも、やられたという感じです。でもぼくは新人バンドだと、ミューズを賢くしてヘヴィメタ感を取り去ったようなエル・ミラーノの方が好きです。彼らが今年一番売れるバンドだと思っていたのですが。
しかし、いいバンドがどんどん登場してきますな。彼らはみんな、90年代のロックをちゃんと通過している感じが素晴らしい。60年代、70年代、80年代のリヴァイヴァルではなく、自分たちが子供の頃に聴いていた90年代や00年代の音楽を、ちゃんと自分たちの血や空気として感じ、それを自分たちの音楽として出しているところが凄いなと思います。
ぼくは90年代にロックの世界で食わせてもらっていたんですが、実は90年代のことを何も分かっていなかったんだな、ということを若い人たちに教えてもらっている感じがして楽しいです。オアシスだったらビートルズ、スーパーグラスはマーク・ボラン、ストロークスはNYパンクに影響を受けたみたいな、彼らの音楽の上っ面しか分かってなかった。彼らが歌っていた時代性というのを全然理解してなかったのだと思います。
ぼくがパンクだった77年頃、ほとんどの音楽評論家はバカだと思っていたけど、いま、自分がそのバカになっているとは。でもまあ、音楽をやっている人が一番の評論家なんだな、という気がします。
ブラッド・レッド・シューズもまさにそんなバンドなんじゃないでしょうか? ぼくが見ていたのとは違った感覚で、ニルヴァーナやソニック・ユースなどを自分たちの音楽にしているように思います。
ドラムとギターだけの編成、かつ男と女のバンドということだけで、彼らがよく比較されるホワイト・ストライプスのことを「あれはブルースなどの過去の音楽を再現しているだけだろ。ぼくたちはもっと自由だ。ホワイト・ストライプスはジャック・ホワイトのワンマン・バンドだけど、ぼくたちは二人でジャムしながら曲を作っていくんだ」と言ってました。若いのに、自分のことも他人のこともよく分かっていて偉いなと思います。
ブラッド・レッド・シューズとゴシップには、基本的にベース・レスという共通点があるけど(ゴシップはギタリストがベースも兼任してる)、彼らは90年代のライオット・ガールや80年代のストレート・エッジといった思想にも影響されている。初めは、いま頃なんで? と思っていたんだけど、彼らがとても新鮮な感じで、そういう思想に影響されているので、ぼくは凄くいいなと思うようになった。そして彼らを通して、いい音楽が古くならないように、いい思想も古くならないということを教えてもらった。
ライオット・ガールの思想が、ベースがなくてもいいじゃんという発想につながったのかは聞き忘れたけど、ブラッド・レッド・シューズが二人で自由に歌を歌い、楽器を演奏している姿を見ていると、いい気持ちになるんだよな。そして、ストレート・エッジだからといってハードでダークな感じでにするのではなく、キャッチーでファンキーなリフを奏でたりしているのを聴いていると、いいバンドだなと思う。
そう思ってしまうのは、ぼくが、クランプスとかベースの入ってないバンドが好きなだけだからかもしれないけど。