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第109回 ─ スミスのワイルドな側面を継承するサンズ&ドーターズ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2008/03/27   18:00
テキスト
文/久保 憲司

「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、フランツ・フェルディナンドの寵愛も受けるグラスゴー発の4人組バンド、サンズ&ドーターズについて。

 毎日が楽しい。ただ新しいバンドのCDを聴いているだけなんだけど。先行き不安な日本で、43歳のオッサンが若いバンドの音を聴いて、楽しいって。そんなことよりも、もっと世の中のためになるようなことをした方がいいと思うんだけど。でもぼくは、若いバンドから色々なことを教えてもらっているような気がしていて、それがなんだか楽しいのだ。

いまのバンドの多くは、ぼくが子供の頃に聴いていたようなバンドに影響されていると思うんだけど、そういう古いバンドの見方が僕とは違っていて「ああ、そんな風に捉えるのか」といつも驚かされる。古いバンドを再確認したくなるし、新しい視界が開けるような気がするのだ。

  サンズ&ドーターズのセカンド・アルバム『This Gift』、凄いんじゃないでしょうか? ぱっと聴きで、リーナ・ラヴィッチを思い出しました。彼女の『Stateless』は名盤なんで、よかったら聴いてみてください。変わったことをしようとしているんだけど、ポップにもしようとしているところが似ているかなと。彼らはもちろんパティ・スミスなんかも好きなんだろうけど、スコットランド~ブリテッシュ繋がりということで、リーナ・ラヴィッチとかペネトレーションを思い出す。

ブリット・ポップの時は、あまりいい女性ヴォーカルのバンドがいなかったけど、このサンズ&ドーターズを始め、ブラッド・レッド・シューズやロス・キャンペシーノス!など、いまのシーンは凄く女の子が頑張っている感じがする。

  もちろんブリット・ポップの時にも、名盤『Elastica』を出したエラスティカがいるんだけど。でもぼくは当時、あのアルバムを、ただのワイヤーのパクりと思っていてあまり聴いてなかった。しかし、レッチリのアンソニーが自伝で、薬物治療のために入院している時に『Elastica』ばかり聴いていたと書いていて、再確認しないといけないなと思っている。

レッチリにしろ、ビースティ・ボーイズにしろ、あの頃のバンドというのも、いまのバンド同様、ギャング・オブ・フォーなどのポスト・パンクが大好きだったけど、彼らは、ギャング・オブ・フォーがしていたことをどれだけ発展させることができるかに命をかけていたと思う。そうして、レッチリやビースティのような、いままで聴いたことのない音楽が生まれた。

でもいまのバンドはそういう感じではなく、サンプリング感覚で、昔の音をいまやったらどう新しく聴こえるんだろうということをやっていると思う。

  実はレッチリも『Californication』以降はニューウェイヴ再評価というか、いまの若いバンドと同じような方法論でやっていて面白いなと思っていた。そのきっかけはジョン・フルシアンテのバンドへの復帰だと思っていたんだけど、実はアンソニーが『Elastica』を「ワイヤーのパクりじゃん」と言わずに聴き狂ったことで、ニューウェイヴ再評価もありだなということに気づいたんじゃないかといまは思っている。

ぼくらの世代というのはパンクの思想にどっぷりで、ヒップホップやハウスが古い音楽をサンプリングして新しい価値観を与えたことは評価していた癖に、バンドがそういう手法を取ることに関してはモノマネだろうと思ってしまっていたのだ。レッチリはいち早く抜け出していたということだ。そして、ぼくもエラスティカから遅れること13年、やっと新しいバンドの方法論を心の底から楽しめるようになった。

  サンズ&ドーターズはこういう方法論だけでやってるバンドではないけれど、メンバーが大好きだというスミスの取り入れ方とかは、やられたなと思う。大体スミスが好きなバンドって、スミスのミゼラブルな雰囲気を、ジョニー・マー独特のオープン・チューニングとアルペジオのギターで再現しようとするけど、サンズ&ドーターズはジョニー・マーのワイルドなプレイとか、スミスの曲の裏に潜むワイルドさを受け継いでいて、かっこいいなと思う。“Spilit lips”や“This Gift”などを聴いていると、ぼくが若い頃に通いつめたスミスのライヴでの本当の姿を思い出す。初期のスミスは、いつも最後にお客が全員ステージに上がって大盛り上がりになっていたんだから。

  ベル&セバスチャンやアラブ・ストラップ以降のグラスゴー・シーンの中で、サンズ&ドーターズは久々に出て来た面白そうなバンドだと思う。デビューEPの『Love The Cup』と1作目の『The Repulsion Box』は試聴でちょっと聴いただけなんだけど、ポップなバースデイ・パーティー、グランジを通過したサザン・デス・カルトみたいで、このアイデアにもぼくはちょっとやられている。本当に面白そうなバンドだ。