「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ブリストル・サウンドの雄、ポーティスヘッドが約10年ぶりに発表するニュー・アルバム『Third』について。
ポーティスヘッドの復活は、なかなか劇的だったのではないでしょうか。とくに07年12月の〈オール・トゥモローズ・パーティーズ〉(毎年違ったアーティストが出演者を選んで3日間行われるフェス。他のフェスとの一番の違いは宿泊施設が料金に含まれていて、休憩所や寝る場所が快適なこと。フェスというより、音楽好きの協議会という感じでしょうか)でキュレーターを務め、久々のライヴをすると宣言したのは、なかなかかっこいい復活だったのではないでしょうか。
徐々に発表される〈オール・トゥモローズ・パーティーズ〉の面子を見ていると、今回の3作目『Third』がどういう音になるのか、ポーティスヘッドを作ってきたものとは何なのかというのを解き明かしていっているみたいで、とても興味深かった。一度は行ってみたい〈オール・トゥモローズ・パーティーズ〉、ポーティスヘッドの時に行くべきだったような気がします。
ポーティスヘッドが選んだのは、あのディック・デイル(残念ながらキャンセルになったけど。やっぱりこういうギターが好きだったのね)、そしてジュリアン・コープ、ダモ鈴木、ジャー・シャカ・サウンドシステム、エイフェックス・ツイン、シルヴァー・アップルズ、マッドリブなど。〈オール・トゥモローズ・パーティーズ〉のオフィシャルサイトに出ているラインナップを見てるだけで、感動するかも。これぞポーティスヘッドという感じです。
やっぱり実験的なバンドだったんだなという気がします。それをここまでポップスというか、時代に合った音にしたのは、メンバーのジェフ・バーロウが天才だったからなんだなと、あらためて感心した。
一日くらいはヴォーカルのベス・ギボンズが好きなトーク・トークとかアリソン・モイエなんかが出るような、80'sな日があっても面白かったのに、無理か(笑)。
でも一番興味深かったのはホラーズが出演したことだ。今作『Third』は、ホラーズなどのニュー・ガレージ・サイケとリンクしている感じがする。彼らが作ったあのヒップホップなグルーヴじゃなくて、サイケ・ガレージなあの感じがしている。そして、いままでのどのアルバムよりも、ギターのエイドアン・アトリー的なアルバムなのかもしれない。
みんな結構こういう方向性に行くんですね。DJシャドウも「レア・グルーヴなどの7インチは全部ディグしたから、いまはサイケデリック・ガレージのシングルを集めている」と言っていたし。しかし、この言い方はかっこいいですよね。ぼくも田舎に引っ越して、大きな家に住んで、いろんなものをコレクションしながら生活していきたいです。でもぼくはいい音楽を絶対作れないから、ただのコレクターで終わってしまいそうで、怖くってそういう生活に踏み切れない。
昔からのポーティスヘッドのファンは、このアルバムを少しレベルダウンしていると言うかもしれない。でもそれは、衝撃のデビュー作『Dummy』の次に出た『Portishead』が、リリース当時にレベルダウンしたよねと言われたのと似ている。ぼくも初めはそう思ったけど、あの名ライヴ盤『PNYC(Live At The Roseland Theatre)』を聴けば、『Portishead』の曲が、『Dummy』の曲に全然引けを取らないのがよく分かる。この10年ぶりのアルバムも、ライヴでは絶対ほかのアルバムと見事に交差し、完全なるポーティスヘッドの世界を作ると思う。
『PNYC(Live At The Roseland Theatre)』みたいにニューヨーク・フィルは参加してなかったけど、あの時期のポーティスヘッドのライヴをグラストンヴェリーで見たことがあって、凄い良かった。どう凄かったのかは、上手く説明できないんだけど。ポーティスヘッドは気だるいとか言われるけど、全然そんなじゃなくて、力強いライヴだった。ポーティスヘッドが嫌う、トリップホップとか、気をてらったものじゃなくて、フランク・シナトラとかナット・キング・コールが完璧なビック・バンドと歌っているのと似ているような気がした。
今度こそ日本に来たらいいですね。このアルバムのような、完璧な世界を見せてくれることでしょう。