NEWS & COLUMN ニュース/記事

第122回 ─ フレンドリー・ファイアーズが仕掛けるポスト・パンク/ハードコア復讐戦

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2008/09/25   18:00
テキスト
文/久保 憲司

「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、〈SUMMER SONIC 08〉に出演し、新たな単独来日公演も決まったばかりである、ロンドン北部出身の3人組バンド、フレンドリー・ファイアーズについて。

  復刊されたピーター・バラカンさんの名著にして、ソウル・ミュージック・ガイドの決定版「魂(ソウル)のゆくえ」、やっぱ名作です。基本的には、絶対読まなければならないソウル本。ピーター・ギュラルニックの「スウィート・ソウル・ミュージック リズム・アンド・ブルースと南部の自由への夢」とネルソン・ジョージの「リズム&ブルースの死」を足して2で割った本というか、これらの本を題材にバラカン教授がブラック・ミュージックの歴史を楽しく教えてくれているという感じです。

この本の一番の魅力は、バラカンさんのブラック・ミュージックへの愛が詰まっていることです。そしてディスク・ガイドが素晴らしい。チャック・ベリーとかリトル・リチャードとかミーターズなんかは色々なベスト盤が出過ぎていて、どれを買ったらいいのか誰もが迷うと思うんですけど、この本で紹介されているCDを選べば、間違いなく満足できるという感じなんです。他の評論家の本だと「このオリジナル・アルバムは絶対おさえておいたほうがいい」とか、いろいろうるさいんですよ。そんなお金も置いておく場所も普通の人にはないのです。

  この本でオーッと思ったのがファンクの解説。「ブラック・ミュージックの基本的なリズム感は2拍目と4拍目を強調するものですが、ジェイムズ・ブラウンのファンク革命では1拍目に何よりも力を入れます。〈オン・ザ・ワン!〉とJBはよくバンドに指示をしたのです。JBに教わった最も大事なことが〈ザ・ワン〉の重要性だと語ったのは、たしか後にジョージ・クリントンの様々なバンドでベースを弾いたブーツィー・コリンズだったと思います」。

BBCかチャンネル4辺りで放映したロックの歴史の番組で、ブーツィーがファンクについて語ったことがあるんだけど、おそらくバラカンさんも、それを見て覚えているんだと思って感動した。その番組でのブーツィーがむちゃくちゃかっこよかったんです。「ファンクなんて簡単だよ、こうすればいいんだ」と、足下にズラーッと並んだエフェクターを適当にいくつか押して、狂ったような音でベースをブンブンと弾いて「これがファンクだ」と言った後に、バラカンさんが書いておられることを言ったんです。「1、2、3、4、ウン。このウンがファンクだ」と。かっこいい。ジョージ・クリントンもこの話を受けて「これが、すべてのノリが均等なディスコの四つ打ちとファンクとの一番の違いだ。ディスコの四つ打ちは、白人が(誰もが)踊りやすいように均等になったんだ」と言っています。

バラカンさんはディスコ以降のクラブ・ミュージックには興味がないみたいですが、ディスコ以降のブラック・ミュージックやファンクの歴史は、クラブ史を完全に解き明かした「そして、みんなクレイジーになっていく」などの本が語り継いでいきました。

  フレンドリー・ファイアーズがやっているのは、まさにこれ。新しいファンク/グルーヴを語り継いでいくことでしょう。フランキー・ナックルズの初期ハウスの傑作“Your Love”をカヴァーしたり、バンド名を、ジョイ・ディヴィジョンの影に隠れてしまったニューウェイヴ・ファンク・バンド、セクション25の曲名から取ったり。フォールズなんかもそうだけど、彼らは81年頃のポスト・ニューウェイヴ・バンドが持っていた尖っていた部分を再現しようとしているのだ。

  “Your Love”のカヴァーを聴くとまさにそれが伺える。初期のハウス・ミュージックがヨーロッパのニューウェイヴなどにも影響されていたのだということを再認識させてくれる。そして、ニュー・オーダーやア・サーティン・レイシオなどがESGやリキッド・リキッドなどのNYのホワイト・ファンク、パンク・ファンクに影響されていたことも。そう、あの頃は誰もが新しいことをやろうとしていた。それがぼくには新しいグルーヴと思えたのだ。

  フレンドリー・ファイアーズにもうひとつやられてしまうのは、彼らが元々フガジなどのポスト・ハードコア・パンクに影響されたバンドであること。そうした目線もちゃんと入っているのがこのバンドを面白くしている。というか、歴史の継続性を感じてしまう。しかも、エッジーなだけじゃなくて、ポップ・マーケットでもちゃんと成功しようと努力しているところが伺える。それはまるで、当時のポスト・パンク、ポスト・ハードコア・パンク・バンドの復讐戦をしているみたいだ。

フレンドリー・ファイアーズの〈サマソニ〉でのライヴはヘタクソだったという意見をよく聞くけど、YouTubeなんかで彼らのライヴを見ていると、〈フジロック〉で見たフォールズくらい上がるような感じがするんだけどな。セクション25より500倍くらい演奏も上手そうだし。

こうした新しいバンドの新しい歴史、目線、そして、日々YouTubeにアップされていく過去の遺産をバラカンさんのような愛情のある目線で語っていけるのだろうか。いや、語っていきたい。