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第136回 ─ 時代の変わり目をサイケデリックに祝福するフリート・フォクシーズ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2009/04/16   16:00
更新
2009/04/16   18:00
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文/久保 憲司

 「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、アメリカのシアトルより登場したフォーキーでサイケデリックな5人組、フリート・フォクシーズについて。

 前から気になっていたベーシック・インカム(気になる人、ググッてみてください)という発想なんですが、なんと田中康夫さんの新党日本が公約に掲げてました。赤ちゃんからおじいちゃんまで、全員に毎月5万円を支給するというアイデアを出されてます。興味のある人はチェックしてみてください。

歳をとって、子供の頃に興味があった学生運動みたいなものに惹かれていってる自分がおかしいんですけど、でも老後のことを考えると、なんとか少しでも自分の年金が増えるように世の中を変えていかないと、しんどいぞと思ってしまいます。ぼくは国民年金なんで毎月6万から7万円くらいしかもらえないんですけど、本当にそんなのでやっていけるのでしょうか? どう考えても3万くらい足りないと思うんですけど、この3万は自分で負担しろということなんでしょうか?

今度の政府の経済対策では、職業訓練に行っている間のお金や家賃などの支援をしてくれるそうなんですが、こんなぼくみたいな人にも支援してくれるのでしょうか? もし本当なら素晴らしいことなので、話は聞きに行こうかなと思っています。なんとかスキルアップして、たくさん税金の払える男になりたいなと思っています。

  しかし、生きていくのって大変ですね。さんまさんの名言〈生きてるだけで丸儲け〉という言葉を噛み締めながら楽しく人生を送ろうと思っているんですけど、でも大変だから楽しいし、だからこそ丸儲けなんだと思います。ぼくは世の中が不景気だとは思っていなくて、いまは世の中が変わっていってるんだと思っています。だから、自分も変わらないと生き残れないんだと思っています。

フリート・フォクシーズみたいなアーティストが出現し、成功しているのも、いまが世の中の変り目だからかなと思います。彼らがよく比較されるペンタングルやフェアポート・コンヴェンションのような、ブリティッシュ・フォークの牧歌的なアーティストが出てきたのも、そんな時代の変わり目でした。ぼくが学生運動みたいなことに興味があるのも、いまがまさにそういう時代だからなのかもしれません。

でも、フリート・フォクシーズやMGMT、ディアハンターなどの、いま〈ニュー・サイケデリック〉と呼ばれているバンドは、別にレイドバックしているわけじゃありません。未来に向かおうとしている感じが凄くいいのです。フリート・フォクシーズの歌詞を読んでいると、凄くポジティヴで感動します。

  かつてストーン・ローゼズが“She Bangs The Drums”で〈さあ、新しいレコードに新しい針を落とそう〉と、別に時代が変わっているわけではないのに世の中の変化を歌い、本当に変えてしまったように、フリート・フォクシーズのファースト・アルバムの1曲目“Sun It Rises”も、〈昇ってきた太陽はそこにぶら下がったまま/大空で輝いている/汚れなく金色に〉と、新しい朝日を祝福しています。音の方も、プロデューサーのフィル・イークが「彼らのゾンビーズみたいなところにやられた」と言っているようにサイケデリックで、そんなところも、ちょっとストーン・ローゼズと似ているなと思います。まあ、ほとんどの人が「似てないよ」と言うかもしれませんけど。

  でも、彼らの一番の素晴らしさはハーモニーにありますよね。これは残念ながらCD以上にライヴの方が凄いんです。フリート・フォクシーズをウィキペディアで調べてみてください。彼らのライヴがストリーミングでまるまる聴けるページにリンクしてるんですが、そのライヴがとってもいいんです。ハーモニーの後に彼らの強力な音が入ってくると、マジでやられます。ぼくはクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングを生で観たことないんですけど、というか別にいま観たいとは思わないんですけど、ついに自分たちの世代のクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングが登場したのかと思うと、ちょっと嬉しいです。早くライヴを観たいなと思います。

彼らの魅力のもう一つの目玉であるバロック的な感じを、どういう風に自分たちのサウンドとして採り入れているかもチェックしたかったんですけど、自分の耳と知識では、そこは全然理解できなかったのが残念です。一番バロックっぽい“Sun It Rises”なんかも、ドロップDのチューニングにしているのか、それともバロックっぽいチューニングにしているのか、よく分かりませんでした。ライヴ映像を観ると、普通のチューニングでカポを使っているだけのような気もします。今度ギターの個人レッスンに行ったら、先生に教えてもらいたいなと思います。

曲も、結構普通のロック進行のコードを、音の間の取り方なんかでバロック風に聴かせているように感じるんですけど、どうなんでしょう。あれだけ革命だって騒がれたストーン・ローゼズの曲が、実は普通の3コードでできていたように、もしかしたら彼らも、ただ新しいことをやろうとする意思だけで、こんなにも素晴らしい音楽を作ってしまっているのかもしれません。でもそれで、まだまだいろいろな音楽が生まれるなんて凄いじゃないですか。これだから生きてるだけで丸儲けって思うんですよね。