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第138回 ─ 新旧の異形ガレージ・バンド、モンクスとホラーズ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2009/05/14   15:00
更新
2009/05/14   17:56
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文/久保 憲司

 「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ガレージ・パンクの祖とされるカルト・バンド、モンクスと、英国のゴスでガレージな5人組、ホラーズについて。

  伝説のカルト・バンド、モンクス。いくら、フォールやデッド・ケネディーズ、ビースティ・ボーイズが影響されたことを公言していても、このバンドは聴いたら駄目だろうとずっと思っていた。だって、アメリカのGIがドイツに駐留している間に結成したバンドで、メンバーは修道士の格好で、修道士のように頭のてっぺんを剃っている(名前の通りモンクスだから当たり前なんだけど)なんて、絶対いいとは思えなかった。なんか、クリスチャン・メタルの先駆バンド、ストライパーを思い出してしまって、聖書をピック代わりに投げるようなバンドなのかと思ってしまう。

ところで、Wikipediaでストライパーを調べたら、彼らは照明で十字架を作っていて、ジャスティスみたいでかっこよくてびっくりした。でも、服装がいつも黄色と黒で笑っちゃうんだよな。ホワイト・ストライプスの赤と白みたいなものかもしれないけど、なんで黄色と黒だったのだろう、聖なる色なのだろうか。とにかく宗教が好きな人って凄いよね。

  それで、モンクスを実際に聴いてみたら、むちゃくちゃいいのでびっくりした。何故アメリカのGIが、後のヴェルヴェット・アンダーグラウンドやカンなどに通じる音が出せたのか、不思議で仕方がない。本人たちによると、もともとはリトル・リチャードなんかのR&Bが好きだったんだけど、ブリティッシュ・インヴェイジョンに影響されてこういう音になったらしい。でも、65年にこんな斬新な音を出しているバンドは、英国にも米国にもいなかった。ただ、昔を振り返るインタヴューなんかで、「キンクスのライヴはヤバかった」みたいなことがよく語られているから、当時の英国のバンドを生で観て感じたものを、そのままレコードにしたらこうなるのかもしれない。

  この前出たザ・フーの映画「アメイジング・ジャーニー」のDVDのデラックス・エディションには、64年のライヴ映像が入っている。R&Bのカヴァーをしているんだけど、メンバーもお客もアンフェタミンでぶっ飛んでいて、音も彼らの動きも、後のヴェルヴェッツとか、レイヴみたいでかっこいい。あー、この時代に行ってみたいなと心底思う。当時の英国のバンドのレコードはすべてソフィスティケイトされているけど、モンクスは、このザ・フーみたいな英国バンドが生で出してた音を、そのまま録音したということなのだろう。

  そして、彼らが駐留していたドイツという土壌が、モンクスの音をよりハードにおかしくしたんだろうと思う。エンジニアとして、ドイツの重鎮プロデューサー、コニー・プランクが参加していたらおもしろかったと思うんだけど、残念ながらそういう事実はない。しかし、後のアヴァンギャルドでアンダーグラウンドなロックの流れはここから始まったと言っても不思議ではないバンドなのだ(修道士の格好をしていたというのはどうかと思うけど)。そして、普通にガレージとしても楽しめる。本当にいいバンドなのである。

  しかし、ガレージというのはどうしてこうも魅力的なのだろう。ディアハンター周辺のバンド、ブラック・リップスとかもヤバい。ステージでゲロ吐いたりしているそうだが、観てみたい。人が死んだとき、知り合いにその事実をどう伝えたらいいかというのを啓蒙している曲など、おバカな曲満載なんだけど、とってもいいのでチェックしてみてください。あと、ガレージとは言えないかもしれないけど、不良になったベックというか、アメリカのがさつなアークティック・モンキーズと言うべきかのバンド、ケイジ・ジ・エレファントもヤバいよね。ぼくにとっては今年のフジロックの目玉だ。

  でも何と言っても、いまのガレージの親玉と言ったらホラーズだ。そんな彼らの2枚目のアルバム『Primary Colours』が出ました。プロデューサーには、なんとポーティスヘッドのジェフ・バーロウ(やっぱガレージ好きだったのね)と、プロモ・クリップ界の巨匠クリス・カニンガム。クリス・カニンガムが何をしているのか定かではないんですけど、彼もまたガレージが好きということなのでしょう。

これだけ大物が関わったアルバムなんですけど、初めて聴いた時は、キャッチーな曲がないじゃん、これじゃ売れないぞ、ジーザス&ザ・メリー・チェインの一枚目にも、ちゃんと“Just Like Honey”が入っていたぞ、彼らには“Sidewalking”“Reverence ”などのヒット曲がいつもあったぞ……と思ったんだけど、2回目に聴いた時には、すべての曲が冒険的でかっこいいなと思うようになった。

  今作はエレクトロニックな感じを採り入れているという噂だったが、むしろいままでよりサイケなロック作だ。ファリス・バドワンのヴォーカルが、ティアドロップ・エクスプローズのジュリアン・コープやサイケデリック・ファーズのような、80年代のサイケデリック的な歌い方になっていて、それがとってもグッドです。「SNOOZER」誌の萩原麻理さんは「ロマンティックでいいの」と言っておられましたが、ぼくは歌詞がまだ分からないのでその辺はよく分かりません(残念)。でも、一曲だけ手に入れた歌詞を読むと、確かにロマンティックでグッときます。

〈聞いた話じゃ/人は独りで/危険な岩場を灯りもなく/裸足で歩くものらしい/そして見つけた聖地にも/留まることすら叶わない/海へと行進する〉

(残念だけど中略)

〈若さは思春期とともに/色褪せるかもしれないが/新たな不安にいつの間にか捕われる/そのうちきっと/だから/言うのかも/俺たちがたどる道は/危険で不安なものだと/最期の時まで〉

キャー、ランボーみたいでかっこいい。しかも、タイトルが“Sea Within A Sea”だって。そして、このロマンティックな歌詞を普通のロック・バラードみたいな感じに歌うんじゃなくて、カンみたいな曲に乗せて歌うところにホラーズのかっこよさがある。どこまで冒険するんだろう。とにかく、とことん行くぜということだろう。

クラクソンズが「こんな暗いアルバムは出せない」とレコード会社に作品を突き返されたそうだけど、ホラーズは、ヒット曲も何も要らない、とにかく前進するのみだということなのだろう。ぼくは応援します。というか、みんなもジェフ・バーロウやクリス・カニンガムのように応援した方がいいと思う。それだけの価値があるバンドなのです。