「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、先頃初期の2作品が紙ジャケットで再発された80年代サイケの至宝、スペースメン3について。
今年の〈フジロック〉、ケイジ・ジ・エレファントもよかったですが、ヴァージンズがヤバかったです。ニューヨーク・ドールズのバンド・ロゴを下地にしたヴァージンズのロゴがステージに掲げられているのを見た時は〈これ、どうなの?〉と思ったのですが。ステージを観たいまなら、〈ヴァージンズ、君たちはニューヨーク・ドールズの継承者だ〉と言えます。
NYパンク前夜の不良の雰囲気。ニューヨーク・ドールズもそうですが、ディクテイターズみたいな感じが本当に格好良かった。あんなチンピラ、まだマンハッタンに住めるんですね。貧乏人はみんなクイーンズあたりに移住させられているのかと思いました。ヴァージンズのメンバーはモデルもやっているそうで、ふたを開けたらストロークスと同じ金持ちだったり……みたいな話かもしれませんけど。ギターのウェイド・オーツが、ありえないくらい可愛いい美少年でした。担当のディレクターの方も、〈久々の美形ロック・スター登場〉と盛り上がるほど。あとヴォーカル、ドナルド・カミングのダサかっこよさがたまらなくよかったです。ライヴ中の踊りが最高に笑えました。80kidzのMAYUさんはステージ前で踊りまくっていたそうで、この辺の新しいダンス・ミュージックの人たちは本当によくわかっていますな。
ボブ・ディランが『Blonde On Blonde』のレコーディングで1曲目“Rainy Day Women #12 & 35”をメンフィスの一流ミュージシャンを集めて録音した時、みんながシラフ過ぎて自分の思った音が出ないと思ったディランはこの一流ミュージシャンをブッ飛ばして録音しようと思ったそうです。そこでディランが〈みんなブッ飛ぶとき何するの?〉と訊いたら、みんな田舎のミュージシャンでドラッグなんかはやらないため〈酒かな〉と答えたので、ディランが〈じゃあ、酒を飲んでレコーディングしよう〉とみんなを酔っ払わせて、〈みんなブッ飛ばないとダメ〉と歌うあの名曲が生まれたのだそうです。ミュージシャンの人たちはディランが延々と〈みんなブッ飛ばないとダメ〉と歌うから、きっとこの曲は〈みんなブッ飛ばないとダメ〉というタイトルの曲なんだろうと思っていたら、ディランが「この曲は〈雨の日の女〉という曲だよ」と言ったので驚いたそうです。てな具合に、みんな元々ブッ飛ばないでいい演奏をしていたわけなんですね。でもディランは、昔のカントリーやブルースのファンキーな感じが、なにかでブッ飛んだ状態で演奏しているんだろうと思っていたのでしょう。
音でも飛びますが、言葉でも飛びますよね。英語でも、わからないなりにいろんな言葉が音楽に乗って入ってくると本当に気持ちいいです。レナード・コーエンのライヴを生で聴くことができたらすごく気持ちいいんだろうなと思います。久々にボブ・ディランも生で聴きたいなと思いました。それまでは英語の勉強です。一日一単語覚えていきたいです。
音楽で飛ぶと言えば、僕にとってはやっぱりスペースメン3です。日本盤が出ます。いまスペースメン3が再評価されている理由は、ディアハンターなどのネオ・サイケと似ているところがあるからかなと思っています。スペースメン3は、ジーザス&ザ・メリー・チェインとかマイ・ブラディ・ヴァレンタインみたいに過去の音楽を現代にアップデートさせるのではなく、かつてあった音楽のスピリットみたいなものを再現していたところに、いまの時代性と同じものを感じます。それがスペースメン3が再評価されている理由だと僕は思っています。
そしてやっぱりソニック・ブームが、メリーチェインと比較されて〈バカもの!〉と怒るように、ジザメリは3コードだけど、スペースメン3は2コードでもっとシンプルなんです。これぞ、サイケデリック・ドローン・ミュージック。スペースメン3は、スピリチュアライズド(ジェイソン・ピアース)とスペクトラム(ソニック・ブーム)の2つに別れてしまったけど、2人が仲良くというか、ジェイソンが一生懸命音楽しているなかで延々と同じ音を弾き続けるソニック・ブームのドローンな感じをお楽しみあれ。ソニック・ブームの音を聴いているだけで、飛びます。いや、彼らが飛びながら作ってるんだろうなと嬉しくなります。