ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、コーネリアス・グループの全面参加で新作を完成させたヨーコ・オノ・プラスティック・オノ・バンドについて。
〈祝! ヨーコ・オノ・プラスティック・オノ・バンド復活〉という感じでしょうか。ここ日本では、ショーン・レノン、本田ユカ、シャーロット・ミュールが立ち上げたレーベル、キメラ・ミュージックのお披露目コンピレーション発売記念コンサートでライヴをしているし、ロンドンでも今年の6月にオーネット・コールマンがオーガナイズした〈メルトダウン・フェスティヴァル2009〉でライヴをしています。
予定ではオーネット・コールマンも何曲か吹くという話だったのですが、参加したのでしょうか? オーネット・コールマンとやっている写真はネット上に流れていないのですが、なんとマーク・ロンソンがベースを弾いていたりします(しかもなんとヴァイオリン・ベース)。
マーク・ロンソンがプラスティック・オノ・バンドでどんなベースを弾いたのかとても興味ありますが、でも僕的には、コーネリアス・グループの清水ひろたかさんのポスト・パンクなベースが、いまのプラステック・オノ・バンドには最高にハマっているような気がします。現在のプラステック・オノ・バンド、リズム隊が強力ですよね。清水さんとあらきゆうこって最高じゃないですか。
そうそう、プラスティック・オノ・バンドのいちばん最初のドラムって、後にイエスで叩くアラン・ホワイトなんですよね。ジム・ケルトナーが叩いていた時期もあり、プラスティック・オノ・バンドはいつも最強だったわけですけど、その現在進行形がコーネリアス、小山田君とかの日本人というのは何か〈ロックの未来は日本にあるんだ〉って感じがして嬉しいです。しかもショーン・レノンがバンマスみたいにギターを弾いている映像を観ると「Live In Toront '69」のジョンとタブって何か涙します。
「Live In Toront '69」の洋子さん、むちゃくちゃかっこいいですよね。ジョンがロックンロールを歌っている時はずっと白い布をかぶって隠れていて、完全に前衛です。マッチョ社会のロックンロールにフェミニスト的抗議をしている感じ――前衛とロックンロールの融合をブレることなく、完璧に表現したのはやはり洋子さんなんじゃないでしょうか? そして、アートのいちばん重要な部分、正直さを、ロックンロールの世界に持ち込んだのも洋子さんでした。音はもちろんジョンが作っていったんですけど、洋子さんのそんな姿勢が、初期のジョンのソロの飾り気のない剥き出しのロックとなり、そんなサウンドに感化されたロジャー・ウォーターズはピンク・フロイドで『Dark Side Of The Moon』『Wish You Were Here』という名盤を作っていくわけです。そして『Sometime In New York City』での政治性――マーク・ロンソンも言ってましたけど、洋子さんの偉大さはもっと評価されるべきです。
今回のプラスティック・オノ・バンドはジョン・レノンのバック・バンドではなく、洋子さんのバック・バンドという感じで、ヨーコ・オノ・プラスティック・オノ・バンドって感じなんですが、80年代の洋子さんのソロ作と70年代のプラスティック・オノ・バンドのアヴァンギャルドさが見事にブレンドされていて、本当にかっこいいです。アルバム1曲目のニューウェイヴ・ファンクな感じとかは、パラダイス・ガラージ・クラシックでもある洋子さんの名曲“Walking On Thin Ice”を思い出させてくれます。ほかにも“Kiss Kiss Kiss”“Open Your Box”などの70~80年代の名曲が90年代のクラブ・カルチャーのなかで復活していたわけですけど、ついに洋子さんの原点というか、洋子さんの思想体系と言ってもいいプラスティック・オノ・バンドがいま動き出したというのはどういうことなのかな、と思って興味津々です。