ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ジョニー・マーが新加入し、20歳近い年の差も何のそので新作を完成させたクリブスについて。
〈フジロック〉の長い歴史のなかでいちばん最高のMCは、去年の〈WHITE STAGE〉でのクリブスのもの。ライアンがたどたどしい日本語で「犬が死にました」と言って、お客さんがドッと笑ったら「ノット・ファニー(笑うな)」と叫んだことでした。笑っちゃいけないんだけど、オチまであって最高におかしかった。英語で言っていたらみんなしんみりしたんだろうけど、何で日本語で言ったんでしょうね。通訳の人もちゃんと「先週、僕の愛していた犬が死んだんだ」って教えたらよかったんだろうけど、〈噛む〉って思ったんだろうな。でも僕的には、クリブスの歌がロマンティックなことを歌っているんだなということを証明するいい話だなと思っています。
前作ではフランツ・フェルディナンドのアレックスからプロデュースをやらせてくれとラヴコールを受けるなど、イギリスではミュージシャンズ・ミュージシャンのバンドとして評価されていたのですが、今作はどういうわけかイギリスでバカ売れし、一気に大ブレイクしてアリーナ・クラスのバンドに成長しました。本作はいままでのアルバムよりもイギリス人が好きそうなサウンドになっているところがウケたところかなと思うんですが、どうなんでしょう。マニックスみたいな曲もあります。
ライアンかゲイリーはアメリカのインディー・バンド好きが高じてアメリカに住んでいると思うのですが、そこでモデスト・マウスのメンバーにバーベキューに誘われて、〈イギリス人のギタリストがいるから紹介しようか〉と紹介されたのが、ジョニー・マーだったというトンでもないエピソードがあるんですけど。イギリス人でバンドやっていて、ジョニー・マーに気付かないって、凄くないですか? モデスト・マウスにジョニー・マーが入っているという情報もあるだろうし、もしかしたらジョニー・マーがいるかもとか期待しないんですかね。僕だったら裏庭に入った時から、ジョニー・マーがいると気付くと思うんですけど。この頃のインタヴューでは、この時の出会いは「スミスは好きだったよ、ジョニー・マーとやれて光栄だよ」とかいう、ジョニー・マーにエクスキューズした発言になっているんですけど、当初は〈ジョニー・マーって誰?〉みたいな感じでした。
そういう感じがよかったのか、年の差20近くの新メンバーの加入は見事に上手くいきました。〈こんな画期的なことがあるのか。ハード・ロック世代ではありえないよな。さすが、ポスト・パンク・ロック世代は大らかだな〉と思ったんですけど、そう言えばジミー・ペイジも普通にブラック・クロウズとやっていたなと思ったので、どんな作品だったのかなと思って調べたら、出ているのはライヴ盤だけで、しかもほとんどツェッペリンの曲という。でもなんか聴きたくなる感じですね。それに比べてジョニー・マーは見事にクリブスの新作に貢献していますね。ちょっとスミスっぽいとこも泣けます。それにジョニー・マーがソニック・ユースみたいな曲でギターを弾いているのもなんかいいなと思います。
しかし、クリブスって変なバンドですよね。アメリカのインディー・バンドに影響されているといってもよくわからないんですよね。クリブスのセカンド・アルバムをピート・ドハーティが凄く褒めていたので、ピートに多大な影響を与えたセンスレス・シングスのマーク・ケッズみたいな感じなのかなと思うんですけど、どうなんでしょう。一度センスレス・シングスのツアー・バスに乗ったんですけど、そこでかかっていた音楽が聴いたこともないアメリカのインディー・バンドの曲ばっかりだったんで、凄くかっこよかったんですよね。そういう感じがクリブスにもあるのかなと思います。僕たちの知らないところでアメリカのバンドとイギリスのバンドがフィードバックし合っているのかな。クリブスが来日した時はそのへんのところとか訊こうかなと思っています。それまではどんなことを歌っているのか、解読です。