ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、LA初期パンクのヤバさを継承したライオット・ガールズ、ミカ・ミコのラスト・アルバムについて。
ミカ・ミコがいちばんの活動拠点にしていたLAのダウンタウンのクラブ、スメルのホームページの、〈All Shows Are $5(=ライヴはすべて5ドル)〉なんてメッセージを見るとスメルに行きたくなる。そこにはやっぱりDIYのパンク精神があるんだろうけど、しかし、ほんとうに5ドルなんかでやっていけるんだろうか、どんなふうに運営しているんだろう。300人入ったとして、15万、バンドと半分こして7万5,000円、30日営業して月の売り上げが225万円、うーん、なんとかやっていけるのか。お酒はいくらで売っているんだろう。それともお酒は売ってないんだろうか、売ってないんだろうな。会場で楽しくパン・ケーキを焼いている映像は観たことあるけど、酒のあのプラスチック・カップが散らばっている映像は観たことない。あのパン・ケーキはもちろん、牛乳も卵も使っていなくって、豆乳なんだろうな。僕もちょっとずつ、ベジタリアンになりつつあるけど、僕はまだ豆乳には慣れていない。世界でいちばん美味しい豆乳というのを飲めば僕も豆乳が好きになるんだろうか。でも市場に出回っている牛乳はすべて加熱殺菌され、酸化していて、体によくないなと思う。無殺菌の牛乳とか飲んでみたいなと思う。やっぱ、その場で獲れたものをその場で食すというのがいちばんいいですよね、なんて、ヒッピーみたいで恥ずかしい。この豆乳に関しては譲れるとしても、でも味噌汁には鰹節を使ってほしいよな。昆布だけだと、ちょっと寂しい。ほんと、ビーガンとかマクロビオティックって大変ですよね。スメルが運営するビーガンのスナック・バーの食事はどんなんだろう。僕はビーガンが好きじゃないんだけど、僕が美味しいなと思う食べ物はあるんだろうか? 彼らが運営する図書館はどんなもんなんだろう。とにかくお金はないけど、いま買える安いHISのパックでLAに行ってみたいなと思っている。そんなお金が僕にはあるんだろうか? ないよな。
って、このミカ・ミコのアルバムを聴きながら、ネットを見ていたら、いろいろと夢が広がっていたんだけど、何とミカ・ミコ解散してしまうんですね。やっぱり商業主義とDIYの精神の狭間に揺れたのでしょうか? それともただ音楽的にパンク的なものに行くのか、ポスト・パンク的なものに行くのかで分裂してしまったのでしょうか? 確かにこのアルバムは1曲目から9曲目まで、サックスなしのパンクだものな。でも、僕の大好きなパンク、本当のパンク、初期のスリッツとかワイヤー、Xレイ・スペックスなどが持っていた、アホのようで実は賢いという感じ。だから、僕はサックスの人がいなくなったとしても、そのまま続けてほしかった。Xレイ・スペックスのローラ・ロジックが入ったらよかったのに、なんて……でももうローラ・ロジックはパンクしないか。
ミカ・ミコはそれだけじゃない、LAの初期パンク、スクリーマーズ(ターゲット・ヴィデオから復刻されたスクリーマーズの映像は本当にヤバい)なんかが持っていたヤバさも持っている。この感じは本当にLAというか、アメリカのハードコアの独特さだったなと思う。そう、30年経っても何も変わっていないけど、でも、それでいいんだと思う。スメルにしてもそう。ロジャー・コーマン制作の「Suburbia」、邦題は「反逆のパンク・ロック」というとんでもない映画なんですが(レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーが出ていて笑うんですが)、あの子供たちの疎外感、だから自分たちを守ってくれるシェルターを欲しがった、それがいまもずっと続いているんだなと僕は思うのです。僕たちにもそういう場所があったらいいな。このミカ・ミコみたいなバンドが自由に活動できるような場所があれば、ミカ・ミコは解散して残念ですけど、ミカ・ミコがライオット・ガールの精神を受け継いでいったように、ミカ・ミコがやったことをきっと誰かが受け継いでいくのでしょう。