ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、後進の人気バンドたちに多大なる影響を与えたどころか、ニルヴァーナの元ネタと言えば……なUKのヴェテラン・バンド、エコー&ザ・バニーメンについて。
ここ最近〈NMEラジオ〉で頻繁にかかるエコー&ザ・バニーメンの新曲“I think I Need It Too”がとてもいいのである。正直初めて聴いた時は「おっ、これがバーナード・サムナーの〈新しいニュー・オーダー〉、バッド・ルーテナントか」と思ってしまったのだが、似ててもいいのかも。「ジョイ・ディヴィジョンとエコー&ザ・バニーメンはライヴァル同士だった」と元ジョイ・ディヴィジョン/元ニュー・オーダーのピーター・フックが言っていたからな。
しかし、ジョイ・ディヴィジョン再評価に比べたら、エコー&ザ・バニーメンの現在の評価といったら悲しい限りです。もちろんコールドプレイに多大な影響を与えていると言われ、この新作『The Fountain』にはコールドプレイのクリス・マーティンも参加してくれています。99年にリリースされたエコー&ザ・バニーメンの復活アルバム『Evergreen』にはリアム・ギャラガーも参加していたりして、みんな子供の頃はエコバニが好きだったのね、って感じで嬉しくなるのですが。でも、もっといろんな人にエコバニの凄さをわかってほしいと思うのです。特に誰も言わないですけど、ニルヴァーナのいちばんの元ネタと言ったらエコバニでしょうと僕は思ってしまうのです。
音楽の話をする前にファッションで言うと、グランジ・ファッションの定番古着のネルシャツとセーターをかっこよく着こなしていたのはあなた、イアン・マッカロク、マックなのですよ。ネットでチェックしてみてください。グランジのルーツはリヴァプールかとびっくりしますから。
マックが初めてパリに行ってから、パリジャン風にセーターを肩からかけてしまうようになったのはどうかと思いますが。これはやはり、エコバニの面々には元々ファッション・アドヴァイスをしていた人がいたけど、この時期にはいなくなっていたのかなと思います。何を隠そう初期のリヴァプールの面々にファッション・アドバイスをしていたのはデッド・オア・アライヴのピート・バーンズだったのです。ピート・バーンズもリヴァプール軍団の一員だったのです。元ティアドロップ・エクスプローズのジュリアン・コープが「僕たちはピートに音楽を教えて、ピートが僕たちにファッションを教えてくれた」と言ってました。いい話ですね。そして、やっぱオカマちゃんは趣味がいいんですね。ちなみにデッド・オア・アライヴってバンド名が3単語から出来ているのでわかると思いますが、元々彼らはゴス・バンドだったのです。
音の話です。ニルヴァーナが売れるためにビートルズのようなポップソングを書いたと言われる“About A Girl”なんて、もろエコバニのデビュー・アルバム『Crocodiles』に入っている“Rescue”そのままなんですけどね。ニルヴァーナのルーツと言えばピクシーズというのがすごくはまる感じがしますが、ギター・コードがジャカジャカとなって、独特なグルーヴを持ったベースが絡んできて、溜めに溜めてドッカーンという感じは同じく『Crocodiles』からの“Do It Clean”やセカンド・アルバム『Heaven Up Here』の“All My Colours”なんかで聴けるエコバニのお得意な感じなんですけどね。
でもやっぱりエコバニと言えばドアーズの“Crystal Ship”に匹敵するとても美しい曲“The Killing Moon”でしょう。これまた誰も言わないんですが、ポスト・パンク世代を代表するいちばんの名曲です。この曲は本当に何度聴いても泣けます。
しかし、イアン・マッカロクは何でこんな泣ける曲が書けるんですかね。ジョイ・ディヴィジョンといっしょでほんとシンプルな曲なんですけどね。最初にいいなと書いた“I Think I Need It Too”も2コードの曲だし、ほんと、何なんでしょうね。クリス・マーティンもたまに煮詰まったら、マックに「何でそんないいメロディーが書けるんだ」とメールするそうです。新作『The Fountain』にはそんなマックならではのメロを持った曲がいっぱいです。でも僕がいちばん嬉しいのは〈NMEラジオ〉を聴いていて、全然若手のバンドに負けてないやんと思ったことです。全然古臭くなってないところにちょっと衝撃を受けました。またエコバニを聴き直しはじめています。みなさんもどこからでもいいんで、エコバニを聴いてみてください。