ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ロックと呼ばれるものすべてのルーツをいまも追い求めるロッド・スチュワートについて。
ちょっと古い話で恐縮なんですが、マーティン・スコセッシ制作総指揮による〈ザ・ブルース・ムーヴィー・プロジェクト〉のなかの映画「レッド、ホワイト&ブルース」が凄くいいんです。7作品全部いいんですが、イギリス人の若者がアメリカの音楽をどれだけ愛していたかというのがひしひしと伝わってくるこの映画は何度観ても感動させられます。ヴァン・モリソンはもちろん、トム・ジョーンズの歌の上手さに感動させられます。強面だし、大先輩だし、さすがのジェフ・ベックもタジタジになりながらトム・ジョーンズの話や歌に聴き入っているところが笑ってしまいます。
「レッド・ホワイト&ブルース」を観ていて思うのは、後のロックの大スターたちが、アメリカのブルースやR&Bをクラブ・ミュージック、ダンス・ミュージックとしてとらえているところがカッコいいなと思うのです。ロックとは、大きな音でやるとか、激しくやるとか、そういうことでは決してなく、どれだけファンキーにやるか、なのだと。それがアメリカの音楽なんだ、それを自分たちのものにするんだ、という決意と努力に心打たれるのです。そして、それがブリティッシュ・ロックになっていったのです。感動するな、本当に羨ましいな、と思います。これが日本のロックにいちばん足りないことなんだと思います。そして、これがJ-Popになっていったんだろうなと思います。
ロッド・スチュワートの大ヒット・カヴァー・アルバム・シリーズの最新作『Soulbook』がむちゃくちゃいいんです。メガ・ヒットしたとはいえ、ロッドがスタンダードをカヴァーした〈The Great American Songbook〉のvol.1からvol.4まで、そしてロック・クラシックを集めた『Great Rock Classics』は好き嫌いが分かれると思うのですが、このロッドが歌うR&Bのカヴァー集は誰が聴いても涙するんじゃないでしょうか。ロッドが歌うR&Bのクラシックは本当に最高なのです。
1曲目の“It's The Same Old Song“で歌っているように、どの曲も誰もが一度は耳にしたであろう曲ばかりなんですけど、本当に心に染み入ってくるのです。なんででしょうね。それは、ぼくがはじめに「レッド、ホワイト&ブルース」について書いたように、これがロッドのルーツ、いや、いま、ロックと呼ばれているものすべてのルーツだからだとしか言えないのです。形は変われど、みんないまもこれを延々と追い求めているのです。ニューゲイザーもラップも全部そうなのです。変な音を出したり、言葉で人を感動させようと思いながらも、絶対、どこかに体を動かせてやろうという思いがあるからなんだと思います。そして、ロッド・スチュワートはその自分が追い求めているものを何十年と経ったいまもずっと同じ気持ちで追い求めているということがこのアルバムを聴いていると伝わってきて、感動するのです。
ロックの頂点を極めた人が、いまだに自分が子供の頃にめざしていたものを追い求めている……そう思うだけで、自分もがんばろうという気にさせてくれるのです。ロッドを知っている人も、知らない人も、ソウルを知っている人も、知らない人も一度は聴いてみたらいいアルバムだと思います。