キセルや竹内電気、シュリスペイロフなどを輩出した目利きレーベルが今年で設立10周年を迎え、記念のコンピレーション・アルバム『colla disc presents LOST TREASURES 2000-2009』がリリースされた。そこでbounce.comでは、活動休止中のトルネード竜巻も一夜限りの復活を果たしたレコ発パーティーに潜入。その一部始終を詳細にレポートいたします!!
FAR FRANCE
記念すべきアニヴァーサリー・ライヴの先陣を切ったのはFAR FRANCE。6Fのバー・スペースに〈大体このへんまでがステージ〉といったアバウトさでセッティングされた機材を満員の観客が取り囲む。ベースの松島昴の脱退が控えていることだし、現メンバーでのステージが観られるのはこれが最後か……と感慨にふけっていると、英真也(ヴォーカル)、畠山健嗣(ギター)、高橋豚汁(ドラムス)と共に現れたのは、元nhhmbaseのギタリスト、入井昇。後にオフィシャルサイトで知ったのだが、そのプレイ同様にエキセントリックすぎる方法ですでにバンドを去っていた松島の代役として、入井に白羽の矢が立った模様である。
「今日は colla discさん10周年ということで、おめでとうございます」という英の挨拶に続いたのは、nhhmbase“蜻蛉日記”のリフ。「嘘です! FAR FRANCEです! よろしくお願いします!!」……と“穴から逆さま”に突入した後は、混沌に次ぐ混沌、爆笑に次ぐ爆笑の30分である。以前、畠山はみずからのライヴ盤(=ファースト・アルバム)『LOVE』を称して「〈ポチッてスイッチを押したら、ぶっ壊れます〉みたいな感じ」と語っていたが、彼らのステージングもまさにそれ。屋台崩しの人間版と言えばいいのだろうか。あの、一瞬で舞台上のセットがグシャッと崩れ落ちる様を体現しているような理性の壊れ方が物凄い……というか、凄すぎて暴れまくる3人に目が追いつかない。両手を大きく振りかぶっては立つという前のめりプレイを繰り返すため、ドラム・セットごとじりじりと前進する豚汁(そのたびに袖から飛び出し、ガムテープで必死に機材を固定するスタッフに同情)。バスドラに駆け上がっては降り、駆け上がっては降り、駆け上がっては降り……を何回やるんだ、ってなほどにリフレインする畠山。そして英がいない!……と思ったら、床に大の字になって寝ている。開始より1分ちょいでこの有様だ。カオティックでハードコアな彼らのサウンドにあまりにも似合いすぎる全力ぶり、ぶっちぎれぶりに思考力を奪われ、ただただ笑いが込み上げてくる。
「まるで醤油ラーメンのような繋がりがありますね、colla discとFAR FRANCEは。醤油と基本のスープ、両方ないとおいしくない。まるで、1杯のラーメンのように結び付いております!!」
と、ブログでほぼ毎日ラーメン日記をアップしている英らしい例え話(ただ、例えになってないような……)の後に披露されたのは、10周年記念コンピ『colla disc presents LOST TREASURES 2000-2009』に収録されている新曲“水族館”。〈夏! 海! 水族館!!〉とテンションが上がりすぎた小学生の心の叫びを言語化したような豚汁のシャウトに続いたのは、素っ頓狂かつスッカスカのギター・リフだ。しかし、不穏なブリッジを経由して突然飛び出してくるシンガロングなサビや、シンプルなように思わせておきながらどんどん暑苦しさを増す展開には、しっかりとFAR FRANCE印が押されている。
「えーと、スペシャル・サポート・ベース、元nhhmbaseの入井昇さんです。この1、2か月でFAR FRANCEにはいろいろありまして、心身ともに疲れ果ててましたけど、いま、ライヴやるのがすごく楽しいです。初心に帰ってますんで(笑)」
てんやわんやの3人の姿にも動じず、黙々とベースを弾き続けていた(でも楽しそう!)入井を紹介し、さり気なくバンドの現状を説明すると、ラストは “addict”“真昼にて”で締め。乱痴気騒ぎも佳境なわけだが、「し、尻に火が点いてるんス!!」……と、アテレコしたくなるような畠山のパフォーマンスは、もう〈暴れている〉というよりはのた打ち回っている、とか、もんどり打っている、とか言ったほうがいいぐらいに落ち着きのなさ全開。大丈夫か心配になる前にやはり笑ってしまう。で、その間に英は壁面に寄せられたテーブルの上に飛び乗り、「どうもありがとう! FAR FRANCEでした! お疲れさまです!!」と叫ぶとギターを投げ捨て、背後の壁と天井の間に空いた隙間(1枚目の写真参照)に飛び込んで退場。あまりにアクロバティックなエンディングに、観客は呆気にとられつつも大喝采だった。
ステージの中盤で英は「元気があれば何でもできる! FAR FRANCEはそういうバンドでありたい!!」と絶叫していたが、ここ数か月で彼らが乗り越えたもの(の大きさ)がその言葉に表れているような気がして何だかグッときた。「初心に帰った」というのも本音だろう。この日は、彼らの今後に繋がるであろう、いいライヴだったと思う。
Sawagi
大阪を拠点にしているため、なかなかお目にかかれなかったSawagiをフロアより一段高いベスト・ポジションで観ようと急いで5Fフロアへ移動すると、照明は抑え気味。完全にクラブ仕様の会場のなかで、メンバー全員がかけているトレードマークのサングラスに埋め込まれた電飾が、暗闇に浮かぶ光の残像でカラフルな曲線を描く。
「お待たせしました! Sawagiです!!」
と、ドラムスのニコが叫ぶと同時に歪んだシンセ音が高らかに鳴り響き、イーヴン・キックがパーティーの開始を告げる。ほとんど逆光なのでメンバーの表情は窺い知れないまま、ねっとりしたグルーヴだけが徐々に引力を増していく。
「改めましてこんばんは! Sawagiと申します!」
突如ハード・ロックばりのヘヴィーなギター・リフが牙を剥いたりと、ド派手な演出やブレイクを随所に盛り込みながら、ダンス・ミュージックたる享楽性を延々 と持続させるパフォーマンスは圧巻。エネルギッシュでエッジもしっかり立っているサウンドだが、ロック・バンドというよりはクラブ・アクトといった趣き で、観客の腰を横へ揺らす。バンド・セットの80kidzと共振するところはあるが……Sawagiのほうがジャズやソウルのテイストが強い。生音を実際 に浴びると、グルーヴがあきらかに黒い……といった分析がだんだんどうでもよくなってきた=意識が飛びそうになった頃にニコによるMCが。
「ありがとう! 東京の皆さん、はじめましての方が多いと思いますけど、Sawagiと申します。コンピレーションCDには80kidzの“vacuum”のリミックスが入っておりますが、その曲はしません! なぜならリミックスだからだよ(笑)」
「今日はcolla discが10周年ということですけれども、うちのバンドのベースも今日27周年を迎えました。本日27歳の誕生日であります! ダブルでお祝いやから、みんなホンマ最後まで楽しんで帰ってや! いくで!!」
……と、クライマックスに向けての号令をかけると、身体が温まりまくった観客たちからはベースの雲丹亀卓人に対する「おめでとう!」の言葉と共に、〈この場を目一杯楽しむ〉という提案への賛同の意味を込めた嬌声が上がる。そこからは、グイグイとせり出すようなエレクトロ・ファンク・ナンバーをこれでもかというほどに畳み掛け、その攻撃性を継承したまま“SUPER CITY”に突入。加速していくミリタント・ビートに身を任せ、会場全体が突進するように昇天してステージは終了。いや~、楽しかった!!
rega
新ギタリストとして四本晶が加入したばかりのrega。井出竜二(ギター)のブログによると〈根っからの弟キャラ〉らしいが、ルックスからはとてもそうは思えない(失礼)……が、そのプレイは見た目通り……もとい、期待通りに男臭くて硬派。一見、人懐っこそうでありながらオラオラなパフォーマンスを繰り広げる井出と青木昭信(ベース)を支えるバイプレイヤー役を、ドラムスの三宅隆文と共にきっちりと果たしていた。
この日のイヴェントには彼ら目当てのお客さんがかなりいたらしく、メンバーがステージ上に現れた途端に大歓声が。それを肌で感じ取ったかのように、4人は初っ端からエネルギッシュに飛ばす飛ばす! まず挨拶代わりに叩き付けられたのは、レーベルのコンピ盤に収録された“VIP”と、テクニカルなリフの応酬で聴き手の度肝を抜く初作『RONDORINA』の冒頭曲“Dress”。アグレッシヴに繰り返されるギター・フレーズと跳ねるベースライン、4つ打ちを織り交ぜながらダンサブルに加速するリズムが、フロアの熱狂に拍車をかける。2曲目にして早くも絶頂へ……と思いきや、ここで突然ブレイク。青木が「ハイハイハイハイハイハイハイ!」と観客を煽ると、会場のあちこちから嬌声が。そんなフロアを見回しながら「……踊れよ」と挑発的に一言告げると、ステージの上も下も一体となってダンス大会へ突入。最後まで体力が保つのか、自分……。
そんな心配をよそに、彼らが巻き起こすフィジカルなグルーヴは間断なく続く。ツイン・ギターとベースが刻む3パターンのリフと、リズムの掛け合い……というか、まるで輪唱のような連なりは、ダンス・ミュージック的なピークタイムを幾度も演出。それがロッキッシュなダイナミズムと共に押し寄せてくるわけで、もうたまったもんじゃない。吠える井戸、モニターに乗って観客の頭上に身を乗り出し、射抜くようにフロアを見据える青木。どこまでも引きずり出される昂揚感を一体どうすれば!?……と、会場の片隅で悶絶する筆者。
「regaです、よろしく。colla disc 10周年、おめでとうございます。僕らを見い出してくれたレーベルです。LOVE!」
井出がそう祝辞を述べた後、エンディングで披露されたのは新曲の“Orange”。タイトルは黄昏時の夕陽を意味しているのかわからないが、力強くもどこか温かみを感じるギター・フレーズと、しなやかにピッチを変えながら疾走するリズム隊が、得も言われぬ切なさを呼び起こす――そして、その切なさがラストで掻き鳴らされる轟音の残響と共にいつまでも余韻として残るナンバーだった。配信限定リリースらしいけど、それはもったいない! ぜひCD化を。
チーナ
4番手はピアノ/ヴォーカルの椎名杏子を中心とした5人組、チーナ。ステージ真ん中にヴァイオリン、向かって右にコントラバス、左にピアノ、背後にギター&ドラムスという編成は、彼女たちがどんなバンドかを知っていてもやはり目を引く。
「チーナです。よろしくお願いします。まずはコンピに入っている“トントンねぇねぇ”からやります」。
椎名がそう告げると、間髪入れずにドラムのリムショットが。そこに軽やかなピアノのリフが加わり……いよいよ全員が一斉に音を発した瞬間の爆発的な昂揚感といったら! 目の前がパッと開けるような感覚に心が浮き立つ。ヴァイオリンの華やかな旋律に耳を奪われたかと思えば、弓弾きのコントラによる滑らかなソロが前に出て、そして上空へ駆け上がっていくような歌のメロディーが解き放たれ――と、楽器が楽器だけに派手なアクションはないが、主役が次々と入れ替わっていく曲構成が観ていて楽しい。
この日のセットリストは、ファースト・ミニ・アルバム『Shupoon!!』のなかでもアップテンポの楽曲を中心に、未発表曲も2曲披露。先に演奏されたタイトル不明の曲は、4つのリフ+ドラムがリズミックに絡み合う構成に自然と身体が動く。サビと間奏を経た後半では同じ展開が登場するが、サンバ調に移行したドラムと各パートのリフの微妙な変化によって祝祭感がグッと増し、そのグルーヴが伝播するように、楽しげにステップを踏む観客の輪が広がっていた。そこに続いたのは“サーカスの少女”。ギターの西依翔太が鉄琴とパーカッション、ヴァイオリンの柴由桂子がマラカスを担当したりとさまざまな音が細かく挿入され、かつ激しいテンポ・チェンジが繰り返される楽曲だが、そのエキセントリックな展開のなかから筆者が感じたのは主人公=サーカス団の一員である少女の孤独感。歌詞が聴き取れなかったので言葉抜きでの印象だが、冒頭とラストでコントラバスが奏でる憂いに満ちたフレーズが物語の方向を示しているような気がした。
椎名のMCは、ほぼ告知と照れ笑いのみといったシンプルこのうえない内容。そのシャイぶりと、正直すぎる歌の世界観との対比がおもしろい。
そんなステージの最後を飾ったのは、言葉の破壊力では前述の初作のなかでも群を抜いている“蛾と蝶とたこ焼きとたこ”と“マトリョーシカ”。個人的にはその言葉が観客にどう届くのかに興味があったのだが、フロアでは、軽やかな曲調に身体を揺らしつつも、ところどころで引っかかりのある言葉が発せられるとじっと耳をそばたてる……といった現象が起きていた。音自体はクラシック・ポップ。しかし、彼女たちがパフォーマンス後によく言われるという「ロックだね」という評は、まさにこういった点によるものだろう。
トルネード竜巻
colla discのなかでも特にイキのいいニューカマーが揃ったラインナップのなかで異彩を放っていた……というか、一際注目を集めていたのはやはりトルネード竜巻。ライヴは今年2月の活動休止宣言以前より行っておらず、約1年ぶりとなる1日限りの復活ということで、会場内の人口密度がハンパないことになっている。
名嘉真祈子(ヴォーカル)、曽我淳一(キーボード)、二木大介(ギター)、柿澤龍介(ドラムス)の4人に、曽我いわく「タワレコで適当に(CDを)手に 取ってなかを見るとほとんどに名前が書いてある(←さすがに嘘)」というサポート・ベースの御供信弘がステージ上に現れると、フロアは歓迎ムード一色。延 々とリフレインされるノスタルジックなシンセのリフが聴こえてきて……オープニングは“バタフライ”だ。
「こんばんは、トルネード竜巻です」という名嘉の挨拶に続いたのは、“低空飛行”。ジャズやプログレを下敷きにした転調や変拍子が多用され、ノイジーなギターが乱れ飛ぶ……と言うと、ここ数年の日本のロック・シーンを牽引する新世代バンドたちの特徴を挙げているようだが、トル竜は、そういった要素を〈ポップス〉のフィールドでファンタジックに鳴らしている人たちだ。透明度の高い名嘉のハイトーン・ヴォイスも相変わらずで、楽曲自体のフレッシュさもまったく失われていない。
スヌーピー柄のワンピースで登場した名嘉に「その衣装はcolla discにちなんで?」と曽我がツッ込んだりと、飄々とした曽我 vs 淡々とした名嘉の間で交わされる、ちぐはぐな会話も絶妙。というか、高田純次ばりに適当な曽我のMCは、〈一夜限りの復活〉という特殊なシチュエーションが持つ緊張感(特に観客側の)をさらりと緩めていく。
「colla discのコンピレーションにせっかく入れていただいたということで、これから“Water Tracks”をやります。水のね、トラック。そういう意味なんでね。水のトラックがブーッと走っていくっていうね、そういう曲です(←嘘)」と曽我が解説する“Water Tracks”は、たまらなくスウィートなポップソング。大半の観客がうっとり聴き入っていたと思われるが、ラストで名嘉が叫んだ「CD買ってくださーい!!」というセリフで、苦笑と共に現実に引き戻される。
曽我「……曲の最後で〈CD買ってください!!〉はどうかと思うよ? ちょっと営利目的感がね(笑)、お世話になったから思い出を込めてこの曲をやってるわけだから」
名嘉「ごめんなさい(笑)! ちょっとがんばんなきゃと思って……。気持ちが先走って……」
曽我「ちょっと心、開きすぎだからね。閉めて、閉めて。ステージ上だから(笑)」
中盤では、曽我が「君の家までは9kmあるなあという曲なので(←これはその通り)、じっくり聴いてください」と語る“君の家まで9キロメートル”と“one note robot”、そして、トル竜としてはもっとも最近にレコーディングされ(と言っても2年前らしいが)、映画「エレクトロニックガール」の主題歌に起用された未音源化の新曲 “タリナリズム”を披露。
曽我「“one note robot”はホントにくだらない感じなんで。大学生の時に作ったから……エヴァーグリーンな感じ?」
名嘉「この曲は、colla discから出た『One night robot kicks the rock』に入ってます」
曽我「入ってるし、それがいま上(のフロア)で売ってるし。真祈ちゃん風に(言うと)ね(笑)。(コール&レスポンス風に)〈買ってるかーい!?〉って感じで(笑)。で、次のやつは“タリナリズム”」
……と、ここで映画の主役を務めたグラビア・アイドルの名前を間違って紹介した名嘉に「今日さ、あれだよね。(MCが)20点ぐらいだよね」とすかさず曽我がダメ出しをしたりと、職人気質な楽曲&プレイとダラダラなMCとのギャップに場内は完全に脱力状態。筆者もそんな雰囲気に慣れてきた頃、バンドの今後の話が語られた。曽我が言うには、まだ活動再開の目途は立っておらず「もうやめるぞ、やめるぞ、って言いながら、1年にいっぺんぐらいは同窓会みたいに集まれたらいいなー、なんて(笑)。なんせ、こんな適当なバンドなんで、ゆっくりと見守っていただければと思います」とのこと。直前の“one note robot”と“タリナリズム”は、ニューウェイヴ風味が注入されたポップなミニマル・ファンク……とでも表現すればいいのか、テクノ・ポップ好きにもウケそうな楽曲だし、これがバンドの創世期と直近のタイミングで作られた曲、という意味でもおもしろい存在なのになあ……。うーん、残念。
フィナーレは、彼らの楽曲のなかでは正統派ポップスと言える “言葉のすきま”。「またどこかで会いましょう!!」という言葉を残してメンバーは去って行ったが、いや、本当に会いたいです。よろしくお願いします。
里帰り
ふたたび6Fのバー・スペースに戻ると、鈴虫の鳴き声が。壁面には民族調のタペストリーやアンティーク風のコサージュが飾り付けられ、灯篭の明かりがフロ ア全体を温かく包み込んでいる。トルネード竜巻帰りの観客でフロアがごった返すなか、ステージ(と目されたエリア)に登場したのは3人。ヴォーカ ル&ピアノのゆり、ヴォーカル&アコースティック・ギターの淳平、ベースの心太による演奏は、ゆりが火を点したお香の匂いが立ち上るなか でスタートした。
「ゆっくり聴いていってくださいね」
歩く速度で奏でられる3人のアンサンブル。シャララランと軽やかに響くウィンドベル。幕開けは“小鳥”だ。素朴な淳平の声と可憐なゆりの声が交互に紡ぐメロディーが耳に心地良い。彼らの音楽に触れたのは今回のライヴが初めてだが、アコースティックな編成で歌をしっかりと聴かせるトリオという印象。特にヴォーカルの2人によるハーモニーの美しさには聴き手の胸の奥にグーッと迫る力強さがあって、コーラスワークが飛び出すたびに、フロアの後ろで雑談に興じていた観客たちの会話がふと止まり、聴き入っているのがわかる。続いて披露されたコンピ収録曲“涙の音”はそんな彼らの美点をはっきりと確認できる逸品。音源ではチーナの柴と林がヴァイオリンとコントラバスで彩りを添えているが、削ぎ落とされた3人ヴァージョンだとメロディーの良さがよりダイレクトに伝わってくる。
「けっこう、おっきい音のバンドさんの後に、静かな感じの私たちなんですけど、どうぞ最後まで聴いていただけたら嬉しいです。お願いします」
ゆりによる奥ゆかしいMCに続いたのは“サイダー”。〈しゅ、しゅ、しゅわ、しゅわしゅわサイダー〉という軽快な掛け合いが微笑ましい。
「colla discの〈colla〉はコラボレーションの〈コラ〉なんですって。知ってましたか? 皆さん。これは本当かどうかわからないんですけど、ウチのボスが言ってたんで、もし間違ってたらボスに言ってください(笑)」
それ、たぶん合ってます……と心中で返事をしているうちに始まったのは“変幻自在”。ゆりの声を堪能できるピアノの弾き語りに近い構成だが、そのぶんサビのハーモニーが際立ち、ふっと気持ちを持っていかれる感覚に陥る。
「人がいっぱいで、きっと、久しぶりに会う人たちもこのなかにいると思うんですけど、きっと、話したいことたくさんあって、会いたい人がいてここに集まってると思うんですけど、どうか最後の曲を聴いてください。一生懸命歌います」
ふたたびウィンドベルの繊細な音色によって導かれた今回のイヴェントのエンディング・テーマは、“どら息子、地元へ帰る。”……これは、いま地元から離れている人なら誰でも強烈なノスタルジーに襲われる楽曲ではないだろうか? タイトルから想像される歌のテーマもあるが、遠い記憶をくすぐるような懐かしいメロディーを辿っているうちに、うっかり人前で泣きそうになる。歌っている 2人も声を震わせており、バンド全体の控え目な佇まいの裏にある熱がしみじみと伝わってきた。
童謡のようにすんなりと聴覚を捕える歌が終わった途端に、フロア全体からは温かい拍手が。そして、ゆりのMCにもあったように、colla discの10周年を祝うべく集まった人たちの談笑は尽きることなく、その後、長い時間に渡って続いたのだった。