NEWS & COLUMN ニュース/記事

第10回――アリス

連載
その時 歴史は動いた
公開
2010/01/06   18:00
ソース
『bounce』 317号(2009/12/25)
テキスト
文/久保田 泰平



78年9月1日、日本武道館。ここで3日間続いたコンサート、その最終日も会場はたくさんのファンで埋め尽くされていた。この年の初め、彼らはシングル“冬の稲妻”を初めてオリコン・チャートの10位内に送り込み、続く“涙の誓い”“ジョニーの子守歌”も同様に高セールスを記録。さらにアルバム『アリスVI』も1位に輝いた。それを経ての武道館――日本人アーティストとして(当時)初めての3日間公演という金字塔を打ち立てた〈その時〉、アリスという名の3人組はトップ・アーティストとしての地位を揺るぎないものにしたのだった。

 共にヴォーカル/ギターの谷村新司と堀内孝雄、ドラムスの矢沢透によって71年に結成。デビュー当初はなかなかヒットに恵まれなかったが、デパートの屋上など環境的に厳しい場所での演奏活動や地方巡業を続けながら着実にファンを増やしていった。そんな地道な活動と谷村のラジオDJとしての活躍による知名度アップが実を結び、75年にリリースした“今はもうだれも”が小ヒット。同曲を収めたアルバム『アリスV』(76年)がその余勢を駆って初のオリコンTOP10入り。先行シングルとなった“帰らざる日々”もチャートの100位内に1年以上もランキングされた。ここまでのアリスの音楽スタイルはいわゆるフォーク・グループの範疇であったが、本格的なブレイク曲となる“冬の稲妻”以降は、ビートの強化やエレキの導入など、貪欲にサウンドをブラッシュアップしながら独自のスタイルを形成し、次々と高セールスを上げていった。単純でありながら情感を引き立てるコード感はフォーク譲りだが、そこに歌謡曲の叙情性とロックのエモーションを融合させた最大のヒット“チャンピオン”はアリスの真骨頂であり、谷村と堀内それぞれがリード・ヴォーカルを張れるだけでなく優れたソングライターであったことが、アリスという三角形をどんどん大きくしていった。そんな彼らも81年11月、後楽園球場でのコンサートを最後に活動休止――。

その後、幾度か再結成を果たしたが、4度目のリユニオンとなった2009年は、81年以来となる全国ツアーを大成功させた。ファイナルは、あの日本武道館。ちなみに2010年1月6日にはその公演を収録したライヴ盤『GOING HOME ~TOUR FINAL at BUDOKAN~』(avex io)がリリースされる。そして2月28日には東京ドーム公演も決定した。3人合わせて180歳、また新たな記録に挑もうとしている。

 

アリスのその時々



『ALICE 30 SONGS~member's best selection~』 EMI Music Japan

2009年の再結成ツアー前にリリースされた、メンバー選曲によるベスト・アルバム。谷村が2008年のソロ・ベストで再演した名曲“明日への讃歌”のほか、アルバムやシングルB面などからの〈隠れた名曲〉が聴けるのも嬉しい。まずはコレ。

 

『アリスIX -謀反-』 ポリスター(1981)

いわゆるアリスの歴史〈本編〉のラストを飾ったオリジナル・アルバム。人間の生き様をテーマに掲げた楽曲はすべて谷村が詞を手掛け、“LIBRA”“荒ぶる魂”といったナンバーでは谷村と堀内がいつになく熱い掛け合いを聴かせるなど、〈アリスらしさ〉が猛烈な輝きを放っている。

 

『SINGLES 2』 ポリスター

レーベル移籍後の後期シングルを中心とした2枚組のベスト盤だが、その一方には谷村の“昴”や堀内の(滝ともはるとの)“南回帰線”などソロ曲も収録。2人の音楽的志向もこの頃には明確に別方向だ。現代っ子でも知っているはずの“サライ”やTVドラマ「はぐれ刑事純情派」主題歌の片鱗を垣間見せているわけだが、それがアリスのなかで折衷されることによって独特の世界観が生まれ……とはいえ、そういう奇跡はビートルズ然り、歴史的に見ても長続きはしないわけで。

 

『アリス・ラスト・コンサート完全盤 ~アリス3606日/3人だけの後楽園~』 ポリスター

一方はバンド編成、もう一方は3人だけのアコースティック編成。いずれも後楽園球場で行われた2度のファイナル・コンサートをひとつにパッケージしたものだ。当時のLPでは3分足らずの曲が片面に4曲しか入っていないなど、彼らの魅力はコンサートMCをカットできないこと。本作に限らず、彼らのライヴ盤から伝わってくる雰囲気を感じれば、魅力の根源を窺い知ることができるだろう。

RELATED POSTS関連記事