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七尾旅人 presents 百人組手 vol.2~10年代の不屈精神~ @ 恵比寿LIQUIDROOM 2010年1月9日(土)

連載
ライヴ&イベントレポ
公開
2010/02/26   21:00
更新
2010/03/01   23:16
テキスト
文/北野 創

 

七尾旅人が主催するライヴ・イヴェント〈百人組手〉の第2回が1月29日に東京・恵比寿LIQUIDROOMにて開催された。毎度、異色のコラボレーションを堪能できる同イヴェントだが、今回の〈組手〉はROVO、DJ BAKU、後藤まりこ(ミドリ)の3組。その他にも個性的すぎる面々が出演した当日の模様を、bounceでは詳細にレポートいたします!!

 

七尾旅人
写真/梅田航

 

長蛇の列をジリジリと進んで何とか開演前にフロアへ到達すると、そこは奇跡の瞬間を見逃すまいと意気込むオーディエンスで早くもすし詰め状態。やけのはらのDJを聴きながら、何とか身をくねらすことができるというレヴェルだ。そんななか、胸に〈不屈精神〉の文字が躍るイヴェントTシャツの上に作務衣を羽織り、さらに頭には麦わら帽子+足元には下駄履きという何ともちぐはぐな格好で登場した七尾は、開口いちばん「みんなよくこんなわけのわからないイヴェントに来たよね、サギなのに(笑)」と、主催者にあるまじき発言を連発。のっけから自由奔放なMCで会場の笑いを誘うと、まずは挨拶代わりとばかりに弾き語りで2曲を披露した。演奏途中でチューニングを合わせたり、PAに細かい音響の指示をしたりとマイペースぶりを発揮しながらも、地声やファルセット、エフェクターによる加工ヴォイスなど、いくつもの声色を使い分けたマジカルな歌声と、程良いリヴァーヴのかかったギターが生み出す幻想的な音世界によって、観る者をファンタスティックな旅人ワールドへと引き込んでいく。特に「飛行機に乗って戦場に行った人の曲」と紹介された“airplane”では、穏やかな旋律から一転、エフェクトで過剰に増幅された七尾の絶叫がノイズの壁となって迫り出し、息の詰まるような重々しい空間を瞬時に生み出したのが衝撃的だった。

 

鶴見済
写真/梅田航

 

七尾の「途方もない人を呼んでいます。のりピーじゃないよ(笑)」との言葉に導かれ、ステージに現れたのは「完全自殺マニュアル」「檻のなかのダンス」などの著書で知られるライターの鶴見済。先の〈のりピー発言〉を引き合いにした危なっかしいトークも冴え渡っていたが、七尾のヴォイス・パフォーマンスと勝井祐二(ROVO)のヴァイオリンをバックにしたポエトリー・リーディングでは、存在感のある明朗な語り口で実に見応えのあるパフォーマンスを展開してくれた。世界戦争、核爆弾、自爆テロ、世界的な金融危機、拡大していく貧富の差――現代社会の歪みがもたらしたであろうさまざまな危機的状況に対して、何度となくリフレインされる「もうたくさんだ」のフレーズが、楔となって胸に打ち込まれた気がするのは筆者だけではないはずだ。

 

DJ BAKU
写真/梅田航

 

お次のDJ BAKUは、サイレン音の2枚使いから始まり、激アッパーなエレクトロ~縦揺れ系のブレイクビーツ~ハードコアなダブ・ステップと、目まぐるしく表情を変えていくスキルフルなDJプレイでフロアを完全にロック! いとうせいこうの緊迫感に満ちたアジテーションが熱すぎる名曲“DHARMA”も山場で投入され、さらにそこへ七尾の即興ヴォイスが加わるという悶絶級の流れは、間違いなくこの日のハイライトと言える瞬間だった。その他にもDJ BAKUのスクラッチと、七尾のサンプラーを用いたなんちゃってスクラッチ(?)によるガチンコ対決や、七尾がお気に入りだというドラムンベース調のキラー・チューン“SPIN STREET”の弾き語りカヴァー(!)など、意外性に満ちたパフォーマンスの連続。今回の邂逅は、それぞれのフィールドでオルタナティヴな活動を繰り広げてきた同世代の二人にとって実り多きものとなったのではないだろうか?

 

ROVO
写真/上から時計回りに寺沢美遊、梅田航、磯井玲志

 

その後、やけのはらのDJを挿んでROVOのライヴがスタート。山本精一のリズミカルなギター・カッティングを先導役に、怒涛のグルーヴが渦巻く“KOO”で一気にトランシーな音宇宙へとテイクオフし、そこから“MELODIA”“AGORA”と、2008年作『NUOU』からのナンバーを連発する。2組のドラムスが生み出す複雑にして正確無比なポリリズムと、天空を駆け巡るかのようなヴァイオリンの響きが、楽曲の展開とシンクロしたVJと相まって壮大な景色を描いていく。七尾を迎えてのセッションでは、恒星のようなエネルギーを放つバンドに声ひとつで立ち向かう彼の気迫にあてられてか、山本がスプレー缶を持ち出してギターにあてる、こする、吹きかける(!)、挙句の果てに投げ捨てる(!!)、という完全にブチ切れたインプロヴィゼーションを見せ、その鬼才ぶりを遺憾なく発揮! 最後には七尾もイスに立ち上がって観客を扇動しまくり、お互いに死力を尽くした壮絶なライヴとなった。

 

サイプレス上野
写真/寺沢美遊

 

その余韻も覚めやらぬまま、やけのはらがDJブースに登場して自身の楽曲をパフォーム。軽快なマイク捌きでオーディエンスのハートをガッチリ掴んでいるところに、サイプレス上野がシラッと乱入! 意外にも俊敏な身のこなしで(失礼)手すりの上によじ登ると、7インチ柄のド派手なシャツの胸ポケットからCD-Rを1枚取り出し、“ピンポンパン体操”的な脱力サウンドでBボーイ流儀を伝授する迷曲“ヒップホップ体操”をキックする。みんなで〈プッチャハンズアップ〉の動きを練習して身体を揉み解したところで、一旦舞台裏にはけていた七尾が帰還。上野のオカン話からなぜか「俺のほうがマザコンだ!」と主張し合う〈マザコン勝負〉に発展し、ここで両者による母親ソング対決の幕が切って下ろされることに。上野が邦題〈クソばばあ〉こと“Dear MAMA”で母・明子への感謝の気持ちを熱く爆発させると、七尾は母親の視点で書いたという楽曲で我が子を慈しむ母の感情を繊細に描き、上野もたまらず「目から汗が流れました」と絶賛(?)。負けじと地元愛を歌った“WONDER WHEEL”で観衆を再度熱狂させ、勝敗の行方はうやむやにしながらも、いつか七尾と再戦することを誓ってステージを後にした。

 

後藤まりこ
写真/梅田航

 

ここで、アナウンスされていた最後の組み手、ミドリの後藤まりこが登場。淡いオレンジ色のセーターに鮮やかなピンク色のマフラーを合わせた彼女の姿は、これまでのセーラー服での活動を見慣れていただけに、同級生の女の子の私服姿を初めて見た時のような甘酸っぱいドキドキ感が甦るかのようで……要は物凄くくキュートだった。彼女との対戦形式として七尾が選んだのは弾き語り。まずは後藤が1分弱ぐらいの可愛らしい小曲“すき”と、陸上で生活するイルカのことを歌った風変わりな楽曲“陸イルカ”をエレキ・ギターで弾き語ると、七尾は何と華原朋美“I'm proud”のカヴァーで応酬! 「援交少女のテーマ曲」と前置きして歌いはじめた彼の切実な歌唱は真に迫るものがあり、最初はネタと勘違いして笑い声の上がった客席も、やがて静かに聴き入っていたのが印象深かった。また、七尾は即興で楽曲を作るため、後藤に詩を持ってくるようオファーしていたのだが、彼女がこの日持参したのは2007年に書いたという正真正銘本物のラヴレター! 七尾は彼女が一節一節読み上げるラヴレターの文面をその場で曲に仕立てようと試みるも、〈セックス〉や〈生理〉といった言葉が飛び出すあまりにもあけ透けな内容にあえなく撃沈……凄すぎだよ。さらに後藤は“I'm proud”への対抗として、森高千里“雨”の意外にしてズッパマリなカヴァーを可憐に歌い上げ、これまでの戦いでかなり消耗していた七尾はもはやグロッキー状態に。「第二形態に変身する!」と言い残して舞台袖に下がった彼を尻目に、後藤がミドリ用に作ったという新曲を演奏していると、今度はサプライズ・ゲストとして豊田道倫が突然登場! 〈毎晩オナニーやってるよ〉というフレーズが強烈な“東京で何してんねん”で、会場をますます混迷の淵へと誘う。七尾いわく〈百人組手〉という企画は、豊田が主催するライヴ・イヴェント〈勉強会〉に触発されて開始したもので、豊田には今回ぜひとも出演してほしかったのだという。続けて歌われたのもサビが〈おま○こちゃん〉という破壊力満点のナンバーで、みずからの生き様を歌という表現方法で真摯に曝け出す彼の真髄を見せ付けて、嵐のように去っていった。

 

七尾旅人
写真/梅田航

 

ステージ上にひとりぽつんと残った七尾は、何故か“We Are The World”をマイケル・ジャクソンら各演者のモノマネを交えながら鼻歌気分で歌い出す。ずいぶんと上機嫌な様子だ。すでに終演予定時刻をかなりオーヴァーしているものの、ここで彼のパフォーマンスは、突然思いついたかのようにルイ・アームストロング“What A Wonderful World”の日本語カヴァーへと急旋回。ほぼすべての照明が落とされて真っ暗闇となった会場に「ここは恵比寿じゃない。碧空に包まれた平原だ」という七尾の言葉が響き渡る。そのまま雲へ、空へ、宇宙へと想像力の羽を伸ばしながら、最後に到達したのは太陽の輝き。そこで柔らかな歌声に乗せて紡がれる〈この素晴らしき世界〉は、胸の深奥を揺さぶるような神々しさを放っていて、歌の力の神秘をその身ひとつで引き寄せて見せる彼の力量というか才能には、ただただ感服するばかりだった。

 

やけのはら
写真/磯井玲志

 

そんな不思議体験の感動に浸る間もなく照明が灯されると、最後は盟友やけのはらを招いてのファンキー&スウィートなビッグ・チューン“Rollin' Rollin'”で賑々しく締め括り。甘くとろけるようなアーバン・ビートとシルキーなヴォーカル、陽気で快活なフロウが三位一体となった2009年夏の裏アンセムは、トータルで5時間近くにも及んだ濃厚パーティーの最後を飾るに相応しく、清々しいフレイヴァーがフロアを歓喜で満たしてくれたのだった。