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映画『ルド and クルシ』

カテゴリ
o-cha-no-ma CINEMA
公開
2010/02/26   19:05
更新
2010/02/26   19:18
ソース
intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)
テキスト
text:佐藤由美

スペイン語圏ドラマの王道!普遍性とローカル色満載の悲喜劇

お久しぶり!『天国の口、終りの楽園。』以来の悪童コンビ復活。ディエゴ・ルナ&ガエル・ガルシア・ベルナルが、今度はルド(タフ男)&クルシ(自惚れ屋)の異名をとる、愛すべき愚兄弟役で登場。クレイジーでチープなドタバタ劇!? いんや、この情けなくも上品さに欠けるサクセス・ストーリーこそ、ラテン世界の王道。いわゆるテレノベーラ(TV連ドラ)流成功パターンともいえる。普遍的な悲喜劇に地域エッセンスを凝縮。メキシコ国内における興行成績、サントラの爆発ヒットもむべなるかな、なのである。

舞台はメキシコ太平洋側の片田舎(撮影地はハリスコ州チウアトラン)。バナナ農園で雇われ仕事に精出す、母思いの異父兄弟。ギャンブルに目がない妻子持ちの兄と、テキサスでの歌手デビューを夢見る弟。勤労後に待ち受けるは草サッカー試合。兄は荒くれGK、はしっこいFWの弟。兄弟の才能が、たまさかダイヤの原石を探しにきていたスカウトマンの目に留まる。どちらか一人だけをメキシコシティへ連れて行くという。兄弟が選ぶ運命の分岐点はPK勝負。結果、まず歌手志望の弟のほうにチャンスの扉が開く。

アルゼンチン訛りのスカウトマン、バトゥータの語りで物語は進行。ときに含蓄に富む、人生をサッカー・ゲームに譬えながらのナビゲーターぶりが、ちょっとした見もの。サッカー界を取り巻く冗談めいた契約・交渉術、ヒーローと崇められる選手につきものの群像が、ぽんぽん小気味よく飛び出す。邸宅や車を手にするも、プエルトリコ美女や高額賭博、薬物の誘惑が、次々兄弟に襲いかかる。監督・脚本がカルロス・キュアロン。連ドラ発信地の黄金トリオ制作とあって、リアリティ満載。同じスペイン語でも、罵詈雑言の多様性に苦笑する。ただし、純サッカー映画にあらず。

ガエル歌う、チープ・トリックのカヴァー曲《キエロ・ケ・メ・キエラス》は、本国で大ヒット。だっせー!とお思いだろうが、これぞ〈ノルテーニョ〉と呼ぶ北部特有のカントリー演歌のごときスタイル。アコーディオンが不可欠だ。この主題歌を含む国内盤サントラCDは、映画作品を踏まえ、C・キュアロンとM.I.S.(カミロ・ララ)が監修。ノルティック・コレクティヴやフアナ・モリーナといった有名どころから、オルタナティヴの雄までを結集したオツな選曲。真にメキシコ的な〈バンダ〉サウンド現代版から、バラードにクンビアまで、映画同様の共通語とローカル色が絶妙に織り交ぜられており、一興。タフでいかがわしい(まさに、ルド&クルシ!)独特の魅力を放ってくれる。

映画『ルド and クルシ/Rudo y Cursi』
監督・脚本:カルロス・キュアロン
プロデューサーズ:アルフォンソ・キュアロン/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ/ギレルモ・デル・トロ
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル/ディエゴ・ルナ/ギレルモ・フランチェラ/ドロレス・ヘレディア/アドリアナ・パズ/ジェシカ・マス
配給:東北新社(2008年 メキシコ/スペイン)
◎2/20(土)より、シネマライズ、新宿バルト9ほか全国順次ロードショー
rudo-movie.com
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