ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、たった一音に命を賭けるジェフ・ベックとホワイト・ストライプスについて。
世界でいちばんかっこ良いギタリストと言えば、やはりジェフ・ベックであろう。ジャケットに写っている彼の姿を見ているだけで惚れ惚れする。狼ヘアーにパンタロンのズボンで、ちょっと体を折り曲げながら黒のレスポールを弾く姿が描かれた『Blow By Blow』のジャケットは、クエンティン・タランティーノ風に言うなら、見ているだけで何百回もマスがかける。そして、もっと興奮するのが、白いジャケットを着てヴィンテージのオリンピック・ホワイト(リフ?)のストラトを弾く『Wired』でのジェフ・ベック様。もう1回書いてしまうけど、これだけで何百回もかける。
よれよれになって黒のメイプルのストラトを弾くエリック・クラプトンも、これでもかというくらい低い位置でトラ目のレスポールを弾くジミー・ペイジもかっこ良い。しかし、やっぱりジェフ・ベックなのである。高い位置でギターを弾くアークテイック・モンキーズのアレックス・ターナーをかっこ良いと言ういまの世代の目にジェフ・ベックがどう映るのか、ぼくにはわからない。だけど、パンク世代の僕にもまだ、ジェフ・ベックはギターの神様のように映るのだ。それは、姿だけじゃない。その音も神様のようである。これは誰もが理解してくれるだろうと思う。ビートルズの楽曲を使った映画「Across The Universe」でジェフ・ベックによる“A Day In The Life”の名カヴァーが流れた時の衝撃といったらなかった。単純に書けばギターが歌っているってことなんだけど、ギターだけであのジョン・レノンの声を超えてしまうのかと、久々にあのカヴァーを聴いて衝撃を受けた。こう感じた人はけっこう多いのではないだろうか。
ジェフ・ベックがなぜそのようなギターを弾けるのか? ぼくには全然わからないんだけど、ジェフ・ベックを見ていると、とにかく自分の好きなように生きていくとそういうことができるんじゃないか、という気がする。しかし、ほとんどの人が、〈好きなように生きる〉というプレッシャーに潰されてしまいそうな気がする。ジェフ・ベックのギターを聴いているといろいろなことを考えさせられる……というわけで、ジェフ・ベックの新作『Emotion & Commotion』である。もうぼくに何を書くことがあろう、とにかく一度聴いてみてくださいと言うことしかできない。ギターがここまで人の心を揺さぶることができるのか、それを確かめてもらいたい。そして思うんですけど、この人がスリリングなのは、絶対底辺にブルースのファンキーさがあるからだと思うのです。それが、この人がしょうもないフュージョンにならない理由だと思うのです。
そして、ジェフ・ベックと同じように独自の進化を遂げていっているジャック・ホワイトのホワイト・ストライプス。彼らのライヴ盤『Under Great White Northern Lights』も出ます。まだ3曲しか聴けてないんですが、彼らのライヴを堪能できたDVD「Under Blackpool Lights」を超えていること間違いなし。彼らの2007年のカナダ横断ツアーを追いかけたドキュメンタリーDVDも付いてます。そして、なんと彼らのアート・パフォーマンスのような一音だけのライヴも観れるそうです。YouTubeで観るとしょぼい感じがしますが、ドキュメンタリー映像で観たら、アガること間違いなしだと思います。ちなみにその一音はどんな音かなと思って、YouTubeでチェックしたらEでした。声も出してほしかった気がしますが、しかし、かっこ良いですよね。これぞロックというか、ジェフ・ベックも同じで、みんなたったの一音に命を賭けているわけです。それを体験したいためにぼくたちはいつまでもうろうろしているんですよね。そして、いつの日か自分もそんな音を出してみたいなと思います。