彼女から届いた季節の便りが、今年は2枚ある。それは……
毎年、春から初夏の頃に届けられる蜃気楼の街からの私信。それも今年の『残照』で5枚目を数える。差出人は街に散る心象風景を紡ぎ出す稀有なピアノ詩人、寺尾紗穂。彼女の弾き語りを中心に据えながらも、NONA REEVESの小松シゲルをはじめ多くの演奏家を適所に配したサウンドは、時に勢い良く弾みながら、時に芳醇なメロウネスを醸しながら、いつにも増して饒舌な音世界を描いている。もっともそこに彼女のリリカルな歌と歌詞が乗ると、すぐさま淡い印象画めいた景色に変化して、全体に穏やかな統一感をもたらすのだ。
さて、実は今回、私信がもう1枚届いている。メジャー流通される『残照』では歌詞を一部削除せざるを得なかった“アジアの汗”“家なき人”の無修正版に“竹田の子守唄”を加えたEP『「放送禁止歌」』。たとえインディーからであろうと、本当に伝えたいものを出したいという心意気が素晴らしい。彼女の誠実な思いを知るためにも、ぜひ両者を聴き比べてほしい。
▼寺尾紗穂のニュー・アルバムとEPを紹介。
左から、『残照』、“「放送禁止歌」”(共にミディクリエイティブ)