ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場 の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、R.E.M.のピーター・バックが結成したタイアード・ポニーのデビュー作『Place We Ran From』について。スコットランドやアイルランド、そしてUSの星空の下にもよく似合うカントリー・アルバムがここに。
結構僕はスノウ・パトロールが好きだ。あの究極のメロディーと音色、何なんでしょうね。グラスゴーをベースにする北アイルランド人のバンドだからでしょうか、アイリッシュとスコテッシュのいいものが全部集まった感じがいいな。コールド・プレイよりもいいかなと。
日本にいると、スノウ・パトロールやコールド・プレイって、ポップスって思われてしまうんでしょうね。でも、ラジオでパッとかかったりすると〈誰や、このいい曲は。どんな凄い新人なんや〉と思ってDJの人が曲目を紹介するのを固唾を飲んで待ったりするんですが、大体そういう時って、スノウ・パトロールかコールド・プレイだったりするのです。
あと、UKのバンドじゃないんですけど、キラーズも凄いですね。〈キュアーのモノマネ・バンドじゃん〉とずっと思っていたんですけど、ラジオで聴いたりすると、キュアーだけじゃなく、いろんな80’sの感じを実に上手くアレンジし、本当に気持ちいい現代のポップスに仕上げていると思う。毎回〈これは売れるわ〉と納得してしまう。日本の歌謡曲は絶対キラーズをマネしたらいいと思うのに、なかなか出てきませんね。ビジュアル系とかでもいないんですかね? 絶対売れると思うんだけどな。昔の歌謡曲はこういう海外の曲をすぐに上手く採り入れていたけど、この頃はそういうのがなくなって本当に残念だなと思う。
おっと、話がずれた。いまはNMEなんかのネット・ラジオを聴いているんで、DJの人の声なんか待たなくっても曲名がわかって、本当に便利な時代になりました。そんななか、スノウ・パトロールやコールド・プレイ以上に驚かされるのが、デュラン・デュランの“Ordinary World”なんですよね。これむちゃくちゃ名曲なんです。デュラン・デュランですよ。80年代の時、みんなからいちばんバカにされていたバンドです。“Ordinary World”はデュラン・デュランが90年代に大復活した時のアルバム『Duran Duran(The Wedding Album)』からなんですけど、デュラン・デュランにも胸に染み入る曲があったのかと感動です。この曲は13年前のビルボードのトップ3に入った曲で、それから12年間UKのバンドでビルボードのトップ5に入った曲がなく、13年ぶりにトップ5になったのがスノウ・パトロールの4枚目のアルバム『Eyes Open』からのセカンド・シングル“Chasing Cars”だったんです。USのポップスの扉はなかなか重たいですね。でも、スノウ・パトロールがこじ開けられたりするのは、やはり彼らのアイリッシュとスコテッシュの血なのかなと僕は思っています。
そんなスノウ・パトロールのギャリー・ライトボディとR.E.Mのピーター・バックがタイアード・ポニーというバンドを結成して、カントリーのアルバムを作るなんて。タイトルは『Place We Ran From』。むちゃくちゃ期待したが、まさに僕の予想通りの素晴らしい作品である。ギャリー・ライトボディのアイルランド、スコットランドからのカントリーへの想いがUSのピーター・バックのもとで見事にキャッチされたアルバムです。悪いはずがない。ピーター・バックはいろんなサイド・プロジェクトをやっているけど、これがベストなんじゃないだろうか。R.E.Mはラジカルなバンドだけど、R.E.Mもまたラジオで聴くと、〈ああ、いい曲だな〉と思わせてくれるバンドである。そんなバンドの2人がいろんな仲間と作った音楽――それは、スコットランドやアイルランドの星空の下でも、USの星空の下でも、とっても似合う曲たち。日本のラジオで聴くと、〈ああ、スコットランドにも、USにも行きたい〉と思うようなアルバムです。