とめどなく流れ続ける河のせせらぎや、大地を這うように吹き抜ける風の歌。まるで、自然の風景をそのまま閉じこめたような音楽とでもいえばいいのだろうか。アルゼンチンにはナチュラルな感性を持つアーティストがたくさん存在するが、そんな彼らの美しいサウンドを封じ込めたコンピレーションが登場した。ここ数年、カルロス・アギーレというピアノとギターの達人でもあるシンガー・ソングライターが密かに話題だ。そのアギーレの人脈を辿って、フォルクローレからジャズ、音響派に至るまで幅広く選曲されている。ジャンルは様々だが、静謐なトーンや構成の流れは一貫しており、選曲者である橋本徹氏の強いこだわりを感じ取れる。
冒頭のセバスティアン・マッチを中心とした室内楽的な優しいサウンドから、アレハンドロ・フラノフの詩情に満ちたピアノ・ソロ、そしてセシ・エリアスの浮遊するスキャットへと、メランコリックな世界が現れては消えて行く。コンテンポラリー・フォルクローレ・シーンを牽引するアカ・セカ・トリオとそのメンバーのソロ作品、天才パーカッション奏者サンティアゴ・バスケスの親指ピアノによるソロと彼が率いるスーパー・グループのプエンテ・セレステ、そしてアルゼンチン・ロック界の異端児モノ・フォンタナのアンビエント作品と、この国の音楽シーンが俯瞰できることも興味深い。なお、その中心に位置するアギーレ作品は敢えて収録されていないが、彼のハンドメイド感溢れるオリジナル・アルバム(なんとジャケットは手描き!)は、別途日本盤として登場するという。この一連の流れは、使い捨て配信時代の日本の音楽シーンに対する地球の裏側からの警告メッセージ、なんていうと大袈裟だろうか。
ジャケットに写る強風で斜めにしか生えないパタゴニアの木のように、繊細でありながら大地に根を張った力強い音楽。その美しき世界をじっくりと味わっていただきたい。