お盆休みが幕を開ける8月12日、東京・恵比寿LIQUIDROOMで、その歴史的イヴェントは行われた。ミドリVS神聖かまってちゃんである。
ヴォーカル/ギターの後藤まりこが激しい言葉で観客を煽り、時には観客のなかにダイヴし、パンク仕立てのジャズ・ロックやバラードで沸かせるミドリ。ライヴ中にメンバー同士が喧嘩したり勝手にネット中継したり、グダグダな演奏でもメロディーと歌が胸に刺さる神聖かまってちゃん。いわば禁じ手を振り回していまをときめく2バンドが、文字通り同じステージに同時に上がり、1曲ずつ交互に演奏して行くという前代未聞の手法で対決してみせたのだ。
このメイン・イヴェントの前に行なわれたのが、若手によるエキジビジョン・マッチ。フロア後方に作られた特設ステージで、かまってちゃんと同事務所所属の撃鉄と、ミドリの後藤が主宰するレーベルから新作『脳みそをあらおう』をリリースする385の対決だ。
まずは撃鉄。いきなり上半身裸になったヴォーカルのAMANO(JOJI)が、フロアで暴れ回り盛り上げた。続いて385が、アグレッシヴでグルーヴィーな演奏で観客を沸かせる。短い時間だったが、メイン・アクトに引けを取らないライヴで存分にフロアを暖めた。
この2バンドが終わると、それまでステージを隠していた幕が開き、右手に神聖かまってちゃん、左手にミドリが揃い踏み。そして、かまってちゃんのMONOとミドリのハジメがじゃんけんをし、勝ったミドリが先攻となった。
ミドリが“うわさのあの子”から始めると、かまってちゃんは“ゆーれいみマン”で応戦。の子は〈負けられません!〉と意気込んだが、勝手が違うのか〈こういうライヴ初めてだから、とまどいっちんぐ〉と空回り気味。そこにつけ込むかのように間髪おかずミドリが演奏した“あたしのお歌”に、の子とMONOも踊り出す。1曲交代にも関わらず、演奏力と集中力で圧倒してくるミドリに戸惑い気味のかまってちゃんだが、互いにキラー・チューンを披露し合って、対決はヒートアップしていった。
かまってちゃんが“学校に行きたくない”で奇妙なサイケデリアを描き出せば、その一節を引用しながらミドリは“ゆきこさん”に突入し、かまってちゃんが“ロックンロールは鳴り止まないっ”を演奏して観客が沸くと、またそのサビを歌いながらミドリは〈ロックンロールの基本じゃ!〉と“スピードビード”をやる。1曲交代システムならではのスリリングな展開に。
〈ミドリのほうが、かまってちゃんよりエラい。既婚者がおるから〉と攻める後藤に、返す言葉もないかまってちゃん。また、〈ネックレスに指輪ついとる。彼女おるやろ!〉と詰め寄られ、MONOは〈はい〉とカミングアウトさせられたあげく、ビンタまで食らう。さらには、〈今日は喋る〉と言う、の子を遮って後藤は〈おまんこ!〉と叫び、ハジメは〈おしっこ飲みたい!〉とわめく。悪役に徹するミドリに、かまってちゃんが少々引きながらもマイペースで進行するという図は、まるでプロレスのよう。そういえば開演前には水着ギャルが〈チカンアカン〉などと書いた看板を掲げて場内を練り歩き、撃鉄たちを誘導していたことを思い出せば、ステージがリングに見えてくるというもの。
落ち着きが見えたのは中盤。かまってちゃんは、観客にコーラス指導をしたメロディアスな新曲“ベイビーレイニーデイリー”を披露し、ミドリは最新作『shinsekai』収録の“春メロ”をハジメが熱唱。句読点となるシーンを作り出した。
と思ったのも束の間、みさこがステージから消えていたためMONOがドラムを叩いた“あるてぃめっとレイザー!”は、妙に歯切れが良くて攻撃的で、それに応えるようにミドリは“メカ”“獄衣deサンバ”を続けて演奏。後藤は歌いながら、の子やMONOに噛み付かんばかりの勢いで、かまってちゃんエリアに侵攻し、ステージを乗っ取りそうな勢い。それに負けず、かまってちゃんは入魂の“いかれたNEAT”を演奏し、の子は〈いまはコンビニでバイトしてるからニートじゃない。もうすぐメジャー・デビューするが、何も変わらない〉と心情を吐露した。
そんなかまってちゃんを尻目に、ミドリは“鉄塔の上の2人”“どんぞこ”を一気呵成に演奏し、退場。ようやく自分たちの天下になったかまってちゃんは、“いくつになっても”でテンションが上がって即興で演奏しはじめ、の子はギターを床に叩き付けて壊そうとするがうまくいかず、スタッフに注意されて断念。ベースのちばぎんに〈大人の事情で時間なくなったから〉と注意されて“ちりとり”へ。一瞬だったが、彼らはこんなふうにスタジオで遊んでいるんじゃなかろうかと思わせる、微笑ましいシーンだった。そして最後は、“夕方のピアノ”にミドリが加わり、〈死ねー!〉と絶叫しあうカオスに。歌い終わると後藤は、の子にキスして共に観客のなかにダイヴ、その脇ではハジメとMONOが抱き合うという大団円で幕を閉じた。
持ち味全開で悪役を買って出て流れを作ったミドリと、それを受けつつ自分たちのペースで進めた神聖かまってちゃん。どちらもしたたかに10年代を生きるバンドであることを見せつけたイヴェントだった。