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映画『ミックマック/MICMACS A TIRE-LARIGOT』 ジャン=ピエール・ジュネ監督 インタヴュー

カテゴリ
o-cha-no-ma CINEMA
公開
2010/08/31   11:26
更新
2010/08/31   11:39
ソース
intoxicate vol.87 (2010年8月20日発行)
テキスト
interview & text:村尾泰郎

「私の中に残っている子供の世界が想像力を掻き立てるんだ」

緻密に作り込まれた映像と人情味溢れるエンターテイメント。フランス映画の粋をファンタジックな映像で包み込む鬼才、ジャン=ピエール・ジュネの新作『ミックマック』は、パリを舞台にした冒険活劇だ。レンタル・ビデオ店の店員、バジルは発砲事件に巻き込まれ、頭に流れ弾が入ったまま取り出せなくなってしまう。かつて地雷に父親の命を奪われたバジルは巨大な兵器産業にリベンジを決意! そんな彼を支えるのは、廃品回収をしながら共同生活を送る7人の仲間達だった。

「彼らはみんな孤児で社会的に弱い人間なんだ。そういう人間たちが家族のような集団を形成していて、強い者に立ち向かっていく姿を描きたかった。それに彼らはそれぞれ特殊な才能と個性を持っていて、そういったキャラクターの面白さをマンガっぽく表現してみたんだ。〈白雪姫と7人の小人たち〉みたいな感じでね」

スーツケースに入れるほど身体が柔らかいカウチュ、言語オタクのレミントン、見ただけで何でも計測できるカルキュレットなど個性豊かなメンバーが並ぶなか、手先が器用な発明家、プチ・ピエールが造り出すガジェットは、いかにもジュネ好みのユニークなものばかりだ。

「モンマルトルの近くにナイーヴ派の美術品を集めているミュージアムがあって、そこで展示されている作品を借りたんだよ。ナイーヴ派の作品は大好きで、いくつか持ってるんだ。自分では作ったりしないけどね」

どのキャラクターもヒト癖あるが、ジュネの分身ともいえるのが主人公のバジルだろう。頭の中の銃弾が脳を刺激して妄想を見てしまうバジルは、次々と奇想天外な計画を立てていく。イマジネーションに駆り立てられながら集団を率いるバジルの姿は映画監督そのものだ。

「意識したわけじゃないけど確かにバジルと私に共通点は多いね。頭の中の銃弾がバジルの想像力を刺激するように、私のなかに残っている子供の世界が想像力を掻き立てるんだ。それを映画化するためには、バジルのように私もひとつのチームのなかでリーダーシップを発揮しなくてはいけない。カメラマンや衣装係を率いてね」

確かにジュネの作品は、ファンタジックでアナーキーな子供の世界そのものだ。そんなジュネは子供の頃、一体どんな世界で遊んでいたのだろう。

「私は何かを作るのが好きだった。8歳の頃には、自分で人形や人形劇の舞台みたいなものを作って遊んでいたんだ。12歳ぐらいになるとディズニー映画を、再編集というと大袈裟だけど、ストーリーをバラして自分なりの物語に作り替えたりもしていたよ。16歳で8ミリ映画を撮るようになったけど、やっぱり映画は観るよりは作るほうが楽しかったね」

幼い頃から物語を紡いできたジュネ監督。『ミックマック』はそんな少年の夢とイタズラ心に満ちている。

 

『ミックマック』 
監督:ジャン=ピエール・ジュネ
ダニー・ブーン/アンドレ・デュソリエ/オマール・シー/ドミニク・ピノン他
配給:角川映画(2009年 フランス)
◎9/4(土)恵比寿ガーデンシネマにて先行、9/18(土)より全国ロードショー
http://micmacs.jp