『VaniBest』全曲解説!
スラリと伸びた体躯、身長166&173センチ。おそらく20歳を越えているであろう年の頃。タイニィーなローティーン少女が元気に歌って踊るのがアイドルの本道だとするならば、バニビはそこにいるだけで、すでに存在自体がパンクだ。だからこそあり得ないプロモーションが平気でなされ、透明なトラックの荷台で生活する様子を見せたり、握手会ではなくファンを全力で張り倒すビンタ会を行う。〈アイドルなのに~、○○〉という同業者との差異を、より振り幅大きく示すことで輝くアンチな存在。バニラビーンズはアイドルであるからこそ、ポジティヴな意味合いを持ってアイドルを破壊することができる。そしてその破壊は楽曲にも色濃く表れ、今日的なベタな萌え系アイドル歌謡を標榜することなどなく、必ず余計なサムシングありきで気が抜けない。
『VaniBest』は、そんなハカイドル(いま勝手に命名)ことバニラビーンズが、これまで北欧の名のもとに、アイドル歌謡に破壊と革新をもたらしてきた歴史を一望できる〈バニビ入門編〉にして、コアなファンにもマストすぎる、禁断のベスト・アルバムなのである。
冒頭、USのバンドであるMGMT“Kids”のカヴァーで幕を開ける。原曲よりもキックが強調されたフロアライクなバッキバキ・エレクトロ・アレンジには北欧の欠片も感じられず、まずは長年に渡り推し続けてきたバニビの北欧コンセプトを根幹から破壊。
2曲目、アルバムのリード曲である“100万回のSMK”。SMK=週・末・キスの略称ということだが、略してる割にはモロな表現で〈清楚でイノセンスな雰囲気を持つ〉というコンセプトまでもあっさり破壊。曲調はラテン・フレイヴァーのアイドル歌謡という、古典的な手法を採用。そこをいま掘り起こして入れ込んでくるセンスは、Winkを想起させる曲調の3曲目“D&D”に近い。アティテュードは破壊的ながら、いまは空き家ジャンルとなったものを頃合いを見て掘り起こしネタ元とするという点で、バニビはポップスの王道を行くグループ・アイドルだと再認識させられる。
そして4曲目、ピチカート・ファイヴ“東京は夜の七時”のカヴァー。この曲をバニビが演る意味合いとは、バニビがそろそろ〈古き良きもの〉になってきた〈90年代文化〉の全体的リヴァイヴァルを裏テーマにしているユニットだということを物語っているのだと思う。お洒落であることが最重要だったアーリー90’s、もっとも音楽でお洒落を体現していたピチカートを、小西康陽の作風を壊さずにアップデートしたナイス・カヴァー。DJで使いたい。
バニビいちばんのヒット・シングル、5曲目の“LOVE & HATE”、フリッパーズ・ギター“BIG BAD BINGO”の早回し的イントロが印象的なネオアコ・フォーマットの6曲目“恋のセオリー”、カヒミでカリィな雰囲気がたまらない7曲目“サカサカサーカス”、バニビのイメージやコンセプトにもっとも忠実な名曲である8曲目“ニコラ”を経て、9&10曲目はファースト・シングルのレナ/リサ歌い直しヴァージョン。11曲目は“LOVE & HATE”のカップリング曲だった“ガムラスタン”のロック的(?)アレンジ。ここで本編は終幕。
そしてこのアルバムのもっとも肝になる部分が、ボーナス・トラックの百人一首に曲をつけた4曲。これがどれもシンセ・ポップ・アレンジで、音色の選び方からしてDX7導入直後のいにしえのアイドル歌謡曲風。北欧の風に乗ってやってきた設定ありきのバニビとは、同じ虚構に棲むものとして相性が良い。北欧のホの字もないが、今後のバニビの方向性は、こんなところにあるのかもしれない。
全体を通して聴いた印象として、これは紛れもなくアイドル歌謡なのだと思える。それは、レナとリサの持つあやうげな地声の魅力がなによりもアイドル的だから、どんな破壊も無茶も飲み込んで〈アイドル歌謡〉として成立させてしまえるということだろう。VaniBest、VaniBUY!