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第17回――田原俊彦

連載
その時 歴史は動いた
公開
2010/09/22   15:44
更新
2010/09/22   15:44
ソース
bounce 324号 (2010年8月25日発行)
テキスト
文・ディスクガイド/久保田泰平

 

80年代——〈新たな時代〉の幕開けを目前に控え、ティーンエイジャーたちは新しいアイドルの登場を待っていた。キャンディーズは人気絶頂のなかで解散、ピンク・レディーは最盛期のパワーを失い、それまで人々を沸かせてきた新御三家(野口五郎、西城秀樹、郷ひろみ)は二十代半ばに差し掛かって、山口百恵は引退へのカウントダウンを始めていた——そんな頃。TBS系列のTVドラマ「3年B組金八先生」(79年10月~80年3月)に生徒役として出演していた少年たちに注目が集まった。田原俊彦、近藤真彦、野村義男というジャニーズ事務所所属の3人は〈たのきんトリオ〉と命名され、ファンとの交流イヴェントを催すなどドラマ放映中から人気ぶりを見せていた。そしてドラマ終了後の80年6月、先陣を切る形で田原が歌手デビュー。レイフ・ギャレット“New York City Nights”の日本語カヴァーとなった“哀愁でいと”を引っ提げて歌謡界に舞い降りた〈その時〉、少女たちは新たなポップ・アイドルとしての彼を熱く歓迎したのだった。

デビュー曲“哀愁でいと”は70万枚を越える大ヒットを記録。〈トシちゃん〉の愛称で親しまれた田原は、その後も“ハッとして! Good”“悲しみ2ヤング”“君に薔薇薔薇…という感じ”“抱きしめてTONIGHT”“ごめんよ涙”……そして90年の“ジャングルJungle”まで37作連続でオリコン・チャートTOP10入りを果たすヒット曲を送り続け、80年代を代表するスーパー・アイドルとして君臨した。また、80年代後半は歌手活動の傍ら俳優業も活発で、「ラジオびんびん物語」「教師びんびん物語」といった主演ドラマをヒットさせ、お茶の間での人気を拡大していくのだった。

彼の魅力は親しみやすいルックスとキャラクター、個性的なヴォーカル、そしてダンス・パフォーマンスにあった。特にダンスは、先輩のフォーリーブスや川崎麻世など前時代のアイドルが見せてきたアクション~ミュージカル的要素の強いものとは趣が異なるソウル~ディスコ・フィーリングを吸収した華麗かつ軽やかなもので、デビュー当時はそこに革新性を垣間見ることができたのだろう。そのスタイルは後輩の少年隊にも受け継がれていったが、それ以降のジャニーズには田原のようなダンシング・ヒーローは現れていないように思える。

94年にジャニーズ事務所から独立して以降は、年一曲のペースで新曲をリリースし続けている彼。派手なヒットこそなくなったものの、地道にライヴ活動を続けながら、いまだダンシング・ヒーローとして健在な姿を見せている。

 

田原俊彦のその時々

 

田原俊彦 『30th Anniversary BEST』 フォーミュラ

デビュー30周年を記念した2枚組(+DVD)ベスト盤。Disc-1は“哀愁でいと”をはじめとするジャニーズ時代のヒット曲を、オリジナルのニュアンスを活かしたリアレンジで再録。一方のDisc-2はシャラマーのカヴァーとなる97年の“A NIGHT TO REMEMBER”から最新シングル“シンデレラ”までの全シングルと新曲“Rainy X'mas Day”を収録。ナイスミドルなスター=田原俊彦が堪能できる一枚だ。しかし、これだけ〈ビッグ〉なアーティストなんだから、ジャニーズ期のシングルもコンプリートでCD化を願いたい!

近藤真彦 『MATCHY BEST』 ソニー

〈君だけのプリンス〉的な優男キャラのトシと、〈俺たち傷だらけ〉的なヤンチャ・キャラのマッチは好対照のライヴァル。楽曲も新進作家を多用してアレンジで遊ぶトシに対して、こちらは男子たる生き様を描いた歌詞の世界観重視……なんだけど、作詞が松本隆だったりするとただの〈ヤンキー歌謡〉にはならないんですね。

野村義男 『待たせてSorry』 ビクター(1983)

トシ、マッチと比べればキャラクターこそ〈フツーのお兄ちゃん〉だったが、ギターは当時から飛び抜けて上手かった。THE GOOD-BYE結成直前に発表されたこのファースト・ソロ・アルバムには、師と仰いでいたCharの提供曲、さらにはジョニー・ルイス&チャーをバックに従えたナンバーも!

三原順子 『三原順子パーフェクト・ベスト』 キング

〈金八〉の同窓生でツッパリ少女役だった彼女も、いまや議員。アイドル時代は山口百恵を彷彿とさせる憂いあるヴォーカルが魅力的でした。長戸大幸作・編曲のデビュー曲“セクシーナイト”のほか、銀蠅ファミリーとの“だって・フォーリンラブ・突然”、南佳孝作“ミスティー・ヒロイン”など、地味ながら佳曲多し。