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SONOMIとKREVA

SONOMI

連載
360°
公開
2010/09/24   18:57
更新
2010/09/24   18:57
ソース
bounce 324号 (2010年8月25日発行)
テキスト
インタヴュー・文/三宅正一

 

足りないのは愛か、EYEか、Iか……世界の中心でアイを探す彼女の現在地とは?

 

まずは、青森で生まれ育った彼女が、〈その人〉に出会うまでの話。

「父親が音楽の先生をしていて、家でも小さい頃からクラシックが流れているような環境でした。ポップスを聴くと怒られるみたいな(笑)。お父さんが家に帰ってくる車の音が恐怖だったんですよ。ピアノを弾いていないと怒られてしまうから。その反動もあったんでしょうね。中高生になってクラブ・ミュージックを聴くようになって。最初はクラブ・ジャズから入って、そこから徐々に日本語ラップのシーンに興味を抱きはじめたんです。ハタチの頃に仲間とイヴェントを企画するようになって、そこで私自身、歌を歌うことの喜びを覚えたんです。KREVAさんと知り合ったのも、そのイヴェントへの出演オファーをしたことがきっかけでした。最初は〈ただイヴェントにいる女の子〉ぐらいに思われていたみたいなんですけど、ある日私のステージを観てくれて、褒めてくれたんです。仲間たちも〈SONOMIがKREVAに褒められたぞ!〉ってお祭り騒ぎになって(笑)」。

こうして日本語ラップのトップランナー、KREVAにシンガーとしての才能を見い出され、彼のシングル“ひとりじゃないのよ”のフィーチャリングに大抜擢されたのが2004年。翌年には、KREVAが立ち上げたインディー・レーベル=くLabel所属の第1弾アーティストとしてデビュー。以降、KREVAのライヴにはほぼ毎回帯同し、武道館やアリーナ・クラスの会場、各地の夏フェスなどのステージも経験。2007年にはメジャー・デビューを果たし、やはりKREVAの全面的なバックアップを得て、作品のリリースと平行して順調にキャリアとスキルアップを重ねてきた。と、彼女、シンガーSONOMIが歩んできたシンデレラ・ストーリーともいえる道のりを記すと、そこには必ず〈KREVA〉という絶対的なキーワードが付随する。事実、KREVAありきでSONOMIの存在を認識している人も多いだろう。また、SONOMI自身もこれまでの歩みを先導してくれた彼に対する感謝の念を片時も忘れたことはないし、これからもアーティスト活動を共にしたいと考えている。

しかし、このたび完成した3枚目のフル・アルバム『S.O.N.O.M』をもって、SONOMIは自立する。シンガーとしてだけではなく、リリシストとして、コンポーザーとしても。これまで通りトータル・プロデュースはKREVAが担っているのだが、今作におけるSONOMIの存在感はあきらかにこれまでとは異なる精度と説得力を誇りながら、独立した求心力を放っているのだ。まず特筆すべきは、今作ではSONOMI自身がデモの段階から機材と向き合い、これまで以上に濃密な制作時間を過ごしたということ。自分だけの生気を吹き込むように楽曲をブラッシュアップしていくその時間のなかで、トラックに合わせて入念にメロディーを練り上げ、コーラスを探求し、リリックを磨いていった。

「〈SONOMIだから歌える曲〉の幅がどんどん広がっている実感があって。いままでもいろんな曲に挑戦してきましたけど、最初はどうしてもヒップホップ的な要素が強い曲に対するこだわりがあったんです。リリックにしても〈クラブ!〉っていう感じのものが多くて。どこかでカッコつけたがる自分がいたんですけど、だんだんそれは自分の本当のパーソナリティーとはかけ離れているなと思いはじめたんです。私はよく人から思考が変わってるとか、天然とか言われるんですけど(笑)、そういう自然に出てしまう自分をもっと曲に反映したいなって。いまでもリスナーとしてはヒップホップしか聴かないですけど、〈ありのままの自分〉がいろんな人におもしろがってもらえるなら、そのまま表現すればいいといまの私は確信してます」。

全11曲。ある種の自己矛盾さえも愛するように自身のパーソナリティーを明示したリリックを、クラブ・ミュージックとワルツと歌謡曲を有機的に融合させたサウンドで解放するシングル“ミラクルチョコレート”を筆頭に、特異かつ豊潤な大衆性を孕んだポップスが並んでいる。このアルバムからは、SONOMIがピアノと向き合った幼少期に体感した旋律も、クラブ・ジャズに胸をときめかせた10代の刺激となったサウンド感も、ヒップホップ/R&Bとの出会いからプロのシンガーになることを決意した季節の息吹も聴こえてくる。そして、そのすべてがそれ以上でもそれ以下でもない〈ありのままのSONOMI〉に包み込まれている。

1曲目の“S.O.N.O.M(introduction)”において、歪んだ時空のなかで揺れ動くようなシンセサイザーのサウンドスケープから浮かび上がるリリック——〈絶え間なくもがいて/やっと手に入れた鍵を/ひとつずつ/何とかキーホルダーのリングに繋げる/でも まだまだ探してる/完全な私になるために/何が足りないの?/“アイ”が足りないよ〉。

タイトルに冠された自身の名前。そこにひとつ足りないアルファベット〈I〉を一枚のアルバムのなかで獲得していくシンガー・SONOMIの真骨頂。ぜひとも触れてみてほしい。

 

▼SONOMIの参加作品を一部紹介。

左から、RHYMESTERの2006年作『HEAT ISLAND』(キューン)、DJ TAMAの2006年作『MELTING POT』(SPC)、童子-Tの2007年作『ONE MIC』(ユニバーサル)、随喜と真田2.0の2007年作『FESTA A SHIT DI TORO』(GORGONZORGE)、MIDICRONICAの2008年作『#209』(Ref Rain)

 

▼『S.O.N.O.M』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

左から、さかいゆうの2010年作『Yes!!』(ARIOLA JAPAN)、45の2008年作『THE REVENGE OF SOUL』(origami)、熊井吾郎のトラックから成る2009年作『くLabel【其の五】その後は吾郎の五曲』(くLabel)