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MOVE YOUR BODY:またはテクノと引っ越し

連載
Y・ISHIDAのテクノ警察
公開
2010/09/29   17:22
更新
2010/09/29   18:41
テキスト
文/石田靖博

 

長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす連載!!

 

いきなり私事ですが、引っ越ししました。10数年住んだ関西を離れ、花の都・大東京(“とんぼ”風)へ。テクノ者にとって引っ越しの何が大変だったかといえば……荷物の多さですよ! 大量のCD、アナログ、雑誌の山に何度も心が折れつつ、特にアナログのハンパないかさばり具合と重さには、〈そりゃあ皆、PCに乗り換えるよな〉と。そしていまもアナログを抱えて行脚するDJは心底リスペクトするという地獄の時間を越え、何とか部屋も片付いた次第。そこで今回のテクノ警察では、テクノと引っ越しについて(たぶん)世界初の徹底検証を決行!

実はテクノ(というより広義のクラブ・ミュージック)は非常にローカル色の強い音楽である。それは、デトロイト・テクノやシカゴ・ハウス、NYハウス、チリアン・テクノ、ケルン系ミニマル、マンハイム・サウンド、ブリストル・サウンド……と、これだけ地名を付けて呼ばれるジャンルってそうそうないのでは? そしてこれだけ地域に根付いてるはずなのに、そのクリエイターたちは意外にも別の場所が本拠地ということも多いのである。

例えばデトロイト・テクノを代表する一人、ジェフ・ミルズの本拠地はシカゴだし(宇宙という説もアリ)、その川向かい、カナダはウインザーでお馴染みだったリッチー・ホウティンは現在ベルリン在住。チリアン・テクノを世界的にした天才、リカルド・ヴィラロボスもいまはベルリンだったりする(ちなみにベルリンはこちら系の人々には大人気物件で、AOKI TAKAMASA、AKIKO KIYAMA、そして竹村延和なども現在ベルリン在住)。デトロイト・テクノの象徴、デリック・メイも一時期アムステルダムに住んでいたこともあり、それはアムステルダムが〈デトロイトの衛星都市〉と呼ばれるほどにデトロイト的なアーティストを輩出することに関係があっただろう。

というか、基本、人気テクノ・アーティストは世界中を旅から旅へのDJ行脚が多いので、拠点がどこでも関係がないのかもしれないし、住みやすい場所があればそこに移ることを厭わないのだろう。それはテクノが言葉を介しない音楽であり、かつローカルなのにグローバルという特異な性質を持つから……というとクサいのかもしれないが。逆に、自身の拠点を頑に守り続けるテクノ人の存在も興味深い。

すぐに頭に思い浮かぶのはデトロイトの守護神、マッド・マイク(アンダーグラウンド・レジスタンス)であり、ベルリン・テクノ的トキワ荘の大家的存在、モーリッツ・フォン・オズワルドだったりする。デトロイトもベルリンもテクノの聖地ではあるが、彼らはテクノの聖地を拠点としているのではなく、彼らの拠点がテクノの聖地になっている、そんな首領というべき存在感はこの時代において貴重なのである。ひょっとして引っ越しが面倒臭いだけかもしれないが。

 

▼文中に登場したアーティストの作品

 

PROFILE/石田靖博

クラブにめざめたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』。その後タワーレコードへ入社し、12年ほどクラ ブ・ミュージックのバイイングを担当。このたびの引っ越し=異動によって、本当にある店舗の番長的な立場に。カレー好き。今月のひと言→引っ越しの時に盛り上がったのが、自宅アナログ・アーカイヴ捜索。忘れていたお宝に遭遇するたび奇声。しかしプレーヤーの針を買い替えねば……。関西から引っ越していちばん残念なのが、ZETTAI- MU15周年に参加できなかったこと。つくづく残念。