
手作りパッケージに詰め込まれたアルゼンチンの透明な音楽
クリーム色のジャケットに切り取られた正方形の小窓。そこからちらりと覗く水彩画。一枚一枚違う絵柄のCDを何枚か手に取り、どれを選ぼうかと迷うことから楽しみが始まる。そう、カルロス・アギーレ・グルーポのファースト・アルバム『クレーマ』には、本当にわくわくさせられる。お手製のジャケットに包まれた手描きの絵を見れば誰だって、ここに詰め込まれた音楽も素晴らしいことがすぐに感じ取れるはずだ。2000年に制作されたこのアルバムは、今静かに日本で話題になっている。
カルロス・アギーレは、アルゼンチンの地方都市パラナ在住のシンガー・ソングライターだ。彼はピアニストであり、ギタリストであり、歌い手であり、作曲家であり、そして詩人でもある。けっしてメジャーな存在ではない。でも、近年のアルゼンチン音楽、特にコンテンポラリー・フォルクローレのアーティストがこぞって彼の楽曲を取り上げている。いわば、ミュージシャンズ・ミュージシャンといったところだろうか。彼の紡ぐ音から感じられるのは、小川のせせらぎ、風に揺れる大樹の枝葉、雨上がりの土の匂いといった五感を刺激する大地の営み。フォルクローレ、ジャズ、クラシックなど多ジャンルの音楽をベースに、緻密でありながらいたって自然な音楽を構築している。こう書くと浮世離れした音色を思い浮かべるかもしれないが、影響を受けたというキース・ジャレットやエグベルト・ジスモンチなどにも通じる美しさを内包したメロディとサウンド、そして朴訥な歌声は、実にリアルで人間味に溢れている。『クレーマ』はグルーポ(グループのこと)名義で作られており、ここに参加しているミュージシャンたちは、卓越したプレイヤーでありながら気の置けない友人でもあるということも、彼の音楽が地球の裏側でまで支持される要素のひとつ。こういった親密な音楽は、国境など楽々と越えるのだ。本作を聴いて気に入った方は、他の作品もぜひ手に取っていただきたい。『クレーマ』の続編ともいえる『ロホ』、全編インストのコンセプト作品『ビオレタ』、完全ピアノ・ソロ作品『カミノス』と、いずれもアギーレの凛とした世界を堪能できるはず。そして、彼の楽曲をカヴァーしたアカ・セカ・トリオや、レーベル・メイトでもあるホルヘ・ファンデルモーレなどに行き着いてみるのもいいかもしれない。ECM系ジャズやアンビエントやポスト・クラシカルに共感をおぼえる人なら、違和感なくアルゼンチン音楽の深い森に踏み込めるだろう。
「音楽配信の時代」だとか「CDはもう売れない」なんて、したり顔で語るのはもうよそう。音楽もアートワークも丁寧に作られたカルロス・アギーレ作品を手に取れば、そんなネガティヴな感情など消え純粋に音楽を愛せるはず。嬉しいことに、10月には来日公演も決定した。この日を首を長くして待つことにも、彼の音楽を聴くことと同じように、ささやかな幸せを感じてしまうのだ。