ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ 〈現場 の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ジェイムズ・フォード(シミアン・モバイル・ディスコをプロデューサーに迎えたクロコダイルズの新作『Sleep Forever』について。彼らが鳴らすサイケデリックなアート・パンクには、80年代のUKインディー・ロックへの愛が込められている――。
クロコダイルズの2作目『Sleep Forever』、いいじゃないすか。前作『Summer Of Hate』よりも格段の進歩です。これでエコー&ザ・バニーメンのあの名盤『Crocodiles』の名に恥じないバンド(たぶん、そこからバンド名をとったのでしょう)になってくれて、エコバニ・ファンとしては嬉しい限りです。
1曲目“Mirrors”なんかクラウト・ロックにプリミティヴズのようなUKポップなメロディーで、この感じはまだ誰もやってませんでしたね。やられました。2曲目“Stoned To Death”はアメリカのバンドらしく、ダーティー・プロジェクターのような感じ。4曲目“Girl In Black”はスピリチュアライズドを従えたジーザス&ザ・メリー・チェインのようなサイケ・ナンバー。しかもバックにはヴェルヴェット・アンダーグラウンドなノイズが2011年式にアップデートされて鳴っている感じがたまりません。
5曲目“Sleep Forever”はシド・バレット時代のピンク・フロイド――しかも“Arnold Layne”な感じで嬉しくなっちゃいます。6曲目“Billy Speed”はギターの爆発リヴァーヴと暴走するディレイ、そしてチープなコード・オルガン。これ以外に何が入ります? サイケの鏡のような曲です。この感じでドナ・サマーの“I Feel Love”とかカヴァーしてもらいたいです。7曲目“Hearts Of Love”はポップに上手くジザメリをやってます。そして、最後の曲“All My Hate And My Heaxes Are For You”はジザメリとスーサイドがやっているような感じで、他に何を言うことがあります? 最高でしょう。3曲目“Hollow Hollow Eyes”だけが、僕にとってはピンとこず、残り7曲は全部カッコよかったですね。“Hollow Hollow Eyes”は僕にはあまりにもカウント・ファイヴやソニックスすぎます。
僕がこのアルバムでクロコダイルズを好きになったのは、彼らが60年代のガレージというより、UKの80年代のインディー・ロックを自分たちの自己表現としてやっていることに憧れを抱いているからのような気がします。〈80年代のUKのインディー・バンドは60年代のサイケデリック・ガレージに影響されているからいっしょなんじゃないの?〉と言われそうですけど、僕は全然違うような気がします。
60年代の若者にはまだ夢と希望があったと思うんです。でもバブル前の80年代のUKの若者たちは本当に絶望していた。パンクのエネルギーも完全に消え、エクスタシーも上陸する前のUK。僕もちょうどその頃UKに住んでいたけど、いま思うと本当にみんなよく死なずにがんばっていたなと思う。でも、そのなかでも一生懸命音楽をやっていた子たちの音楽が、いま凄く貴重なような気がする。それをいまUSの若い子たちが一生懸命掘り下げていっているのに、僕は凄く興味がある。
MGMTがテレヴィジョン・パーソナリティーズに、ガールズがフェルトに、そしてクロコダイルズが80年代のUKのインディー・ロックに愛を送るのは、そこに〈いまを生きていくヒント〉があるような気がしているからだと思う。それを僕はこれから解きほぐしていきたいと思う。