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I'm not a gun

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2010/12/11   16:33
更新
2010/12/11   16:37
ソース
intoxicate vol.88 (2010年10月10日発行)
テキスト
text : 小野田雄

LAのDJとベルリン在住のギタリストが響かせるエコー

ソプラノ・シンガーの母と指揮者の父のもと、オーストリアに生まれ育ち、現在はLA在住のテクノ・クリエイター、ジョン・テハーダ。4歳でピアノ、8歳でドラムを習い始め、ヒップホップの影響を受け、12歳でターンテーブルを手に入れた彼は、15歳でトラック・メイクをはじめると、その後、ヒップホップからハウス/テクノ/アンビエントへと音楽指向をシフト・チェンジし、DJ/トラック・メイカーとして精力的な活動を行ってきた。2008年には、ヴォーカル・トラックやデトロイト・テクノの影響が感じられるシンセワークを聴かせたりと、彼の経てきた豊かな音楽遍歴をミニマルなトラックに溶かし込んだアルバム『Where』を発表。その才能が世界で認知されているトップ・クリエイターだ。

そんな彼が1999年に出会った日本人ギタリスト、西本毅。2007年に文字通りギターを介した独白といえるソロ作『Monologue』を発表している彼は福岡出身。その後、LA、ベルリンと活動拠点を移しながら、ジャズからインド音楽まで、幅広い音楽に傾倒。そして1999年にLAでのライヴを観に来たジョンと意気投合し、2人のユニット、I'm Not A Gunは結成された。

出自の異なる彼らの国境やジャンルを超えた足跡を追っていっただけでも、音楽を囲い込む壁という壁がガラガラと崩れていくわけだが、I'm Not A Gunがジョンのドラム、ギター、ベース、西本のギターとベースいう生楽器主体のインスト・ユニットであり、その音楽性をしてエレクトロニカやポスト・ロックと評されるに及んで、もはや表層的なジャンル用語がたいした意味をなさないことはお分かり頂けるのではないかと思う。むしろ、そうした足かせから自由になるために、そして、無心で心象風景を描き出すために彼らは音を紡ぐのだろうということが5作目のアルバムに付けられた〈慰め〉という意味の『Solace』というタイトルからも伝わってくる。

クリア・トーンのギターとその織りから生まれるジャジーなメロディと空間をたゆたうシンセサイザー、そして、その空間をテンポ・アップ/ダウンさせながら動かしてゆくベースとドラム。【残響record】から発表されるこの新作アルバムにあっては、テクノのような精緻なリズムから解放され、彼らの体内時間に則った揺れの感じられるグルーヴが、日常の空気に良く馴染むと同時に、温度が下がっていくなかで覚醒していくようなテンションが作品を通じて持続。そんななか、トラック・メイカーとしては、寡黙なジョンの作風とギターを通じて会話するかのように饒舌な西本の作風との狭間で浮かび上がるI'm Not A Gun独自のサウンドスケープは、無駄がなく、それでいて、音の間で何かを物語るかのような絶妙なバランスで成り立っている。先に述べたように、国境やジャンルが無意味だとしたら、聴くべきはその間、耳から離れない残響であることは言うまでもない。